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憂鬱な自己紹介をなんとか乗り越え、新しい教科書を開く授業が始まる。数週間前とは顔ぶれの違うクラスメイトだったけれど3年目ともなれば知っている顔も多く、友だちもすぐにできる。1年生の時に仲が良かった子と同じクラスになり、一緒にお昼を食べた。わたしと同じような、静かなタイプの女の子だ。3年生も無事に過ごすことができそうだと安心した。――五十嵐くんのこと以外は。
放課後になると、予定通り五十嵐くんが迎えに来た。三年の教室を五十嵐くんが覗いた瞬間、クラスの女子生徒はまたざわついた。
「え。誰に用?」
「あーやっぱりすごいかっこいい!」
「かっこいいうえになんかかわいいよね~」
色めき立った声が教室の前や後ろから聞こえてくる。わたしは手をにぎり締めた。五十嵐くんが呼びに来たのは絶対に自分だ。名前を呼ばれでもしたらまた注目を浴びてしまう。それは絶対にいやだ。
わたしはなるべく平静を装い、立ち上がってカバンを持った。普通に帰るように、教室を出る。五十嵐くんがいつ名前を呼ぶかわからないのでずっと胸はドキドキと鳴ったままだ。
無事教室を出ると、後ろから追いかけてくる足音がした。
さすがにクラスの女子も廊下までは追いかけてこなくて心の底から安心した。それでも廊下には下校をしようとしている生徒もいるので五十嵐くんにはできるだけ話しかけてもらいたくなかった。
そうも言っていられないけれど。
「優先輩っ、あの……」
「……どこに行くの?」
「ありがとうございます。こっちです」
あっというまに追い越されてしまって五十嵐くんがわたしを案内しようとしているのがわかった。
少し離れて歩く。五十嵐くんもわたしの気持ちには気づいているようで大きな声で話しかけたりはしてこなかった。自分が望んでいたことなのに少し胸が痛くなった。
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