1 年下生徒会長のお願い

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 五十嵐くんに連れてこられた場所は三階の一番端にある図書室だ。 「ここ?」 「はい。生徒会室だと他の役員も急に来るし、先輩は居辛いかなって。放課後の図書室は来る人少ないですしね」  彼の配慮はありがたかった。わたしが人に見られるのが嫌だとわかっているみたいだ。なのに朝のように話しかけてくることもあるから気を遣ってくれているのか遣ってくれていないのかよくわからない。  放課後の図書室に来ることは滅多になくて、久し振りの図書館の空気は新鮮だ。静かな空間はこんなに心地良かったっけ、と思った。勉強をするなら家でしていたし、本を借りるのも昼休みに来てすぐに帰っていた。もっと利用すればよかったと思うほど、居心地が良い。 広い図書室には背の高い本棚がずらりと並んでいる。人がまばらで、一人で来ている生徒ばかりだからもちろん静かだ。放課後はこんなにも利用者が少ないのかと初めて知った。  窓側の四人掛けの席に座る。夕日が差し込んできて気持ちのいい席だ。それなのに人がいないというのも不思議だった。五十嵐くんは無言で机にプリントを何枚か出し始める。これが読んでほしいと言っていたものだろうか。そのうちの一枚を手に取った。  何を見ればいいのか説明もされていない。まだ机の横に立ったままの五十嵐くんを見上げると、彼はなぜかしょんぼりと肩を落としていた。 「……先輩、怒ってます?」  身長が高いのに仔犬のような視線で見つめてくる。 「どうして?」 「いや、顔が硬いというか、冷たいというか……なんかやっぱり、強引だったかなって」  チラチラとわたしを見ては視線を落とす。わたしの反応が悪いせいか、五十嵐くんはひどく落ち込んでいるようだった。冷たすぎたかな、と少し反省した。 「ごめんなさい。ちょっと動揺しただけ。大丈夫だよ」  こんなにしょんぼりしている人に対して、自分勝手に迷惑だとは言えない。わたしが謝ると、五十嵐くんは安堵の表情を見せる。生徒会長で人気者の彼がわたしの一言で表情がころころ変わるのは変な感じだ。 「よかった……ありがとうございます。それで、これなんですけど」  立っていた五十嵐くんはわたしの隣に座ってくる。正面の二つの席が空いているのに。 「なんでこっちに座るの!」  四人掛けの机に横並びなんてまるで恋人みたいじゃない。そう考えてわたしの鼓動は跳ね上がった。 「このほうが、説明が楽なので……だめですか?」 「だめじゃ、ないけど……」  一人で動揺しているのが情けない。五十嵐くんはわたしのことを好きだと言ってきたけれど、今は純粋に生徒会の仕事を手伝ってほしいだけなんだ。変に意識した自分が恥ずかしくなって、渡されたプリントに目を通す。
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