1 年下生徒会長のお願い

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「俺が書いた文章です。生徒会長として一ページ欲しいって新聞部に言われて……でも俺、文章作るの苦手なので先輩に見てもらいたくて」 「私も、得意なわけじゃないけど」  運動に比べれば勉強はできるほうだけど、自信があるわけではない。点数を取るための勉強しかしていないからだ。 「でも俺、先輩の文章好きだから」 「私の文章なんて見せたことあったっけ? 書いたとしても読書感想文とか、文集とか、そんなものだと思うけど」 「はい。小学校の頃から全部読んでます」  にっこりとうれしそうに告げられて、笑顔の破壊力に視線をそらした。もしかして小学校の頃から好きだったの? と動揺を隠せない。でも中学は別だったし、中学生の時の文章は知らないはずだ。でも五十嵐くんはやけに自信満々なので、母親あたりから入手している可能性もある。そのくらい、やってしまいそうだ。 「そ、そう。えーっと、じゃあ読んでみるね」  真実を知るのが怖い。わたしは聞かなかったことにして、手渡されたプリントに目を走らせる。 「はい、よろしくお願いします!」  新聞部の記事1ページ分は、A4サイズの1枚だった。すぐに読めてしまえそうだ。テーマは『学校について』というかなり大雑把なテーマだけれど生徒会長としてはふさわしいテーマ。予定よりはやく就任した生徒会長がどれほどのことを考えて毎日過ごしているのかは少し興味があった。本を読むことは好きなので、楽しみになってくる。じっくり読もうと姿勢を正す。  なのに、邪魔が入る。 「……ねえ」 「はい?」 「ち、近いんだけど」  隣に座っている五十嵐くんの肩がぴたりとくっついている。息遣いが聴こえるほど近い。同世代の男の子に対しての免疫がないわたしにとってはこの距離感は心臓に悪い。 「俺も一緒に読もうかなって」 「一緒に読む必要ある?」 「だめですか?」  なにこの状況。誰かに見られでもしたらどうしよう。でも放課後の図書室に来る人なんて相当の本好きか、勉強熱心な人かしかいないので、キャーキャーと騒ぐ女子なんていないことにほっとした。 「もう、好きにしていいけど、もうちょっと離れてよ。読みにくい」 「は~い」  壇上ではしっかりと話をする生徒会長だとは思えないほどゆるい態度だ。他の女の子の前でもそういう顔をしているのだろうか。そういうギャップにみんな惹かれるのかな、なんて考えてから打ち消した。はやく目の前の原稿を読まなければずっとこの状態だ。さすがに心臓がもたない。
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