僕と十三人の恋人たち

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 その集いに《業務報告会》という名前を与えたのは、彼女だ。    月にニ、三度、シフトが重なった日の帰り際に、それは行われた。  場所は大抵バイト先の近くにあるファーストフード店やファミリーレストランだったけれど、気候の良い時期は公園のベンチに座って話したりもした。    彼女は語る。  今までに演じた人々について。  ほんの束の間、彼女が体現した、別の誰かの人生について。  ある客は彼女に、実在しない姉を演じて欲しいと依頼した。  大家族で苦労して育った長女だそうで、一度でいいから誰かの妹になって甘やかされてみたかったそうだ。  ある客は彼女に、中学生時代の部活の後輩を演じて欲しいと依頼した。  厳しく指導し過ぎたせいで、才能があるのに辞めてしまった。その事を後悔して、謝りたかったそうだ。  ある客は彼女に、完全犯罪を達成して何食わぬ顔で日常を送っている殺人犯を演じて欲しいと依頼した。   依頼人とは友人同士の設定で、自分の隣でにこにこ笑っている人間が実は犯罪者でサイコパスだった、というスリルを味わってみたかったそうだ。  初めに言っていた通り、彼女は様々な役を演じていた。  実在の人物もいたし架空の人物もいた。  占い師になったり医師になったり教師になったり、祖父になったり同僚になったり動物園の獏になったりした。    「本をよく読むのは、趣味というより演技の勉強の為なの。自分の想像だけでは追いつかないから。本に出てくるキャラクターから似た設定のを探して、参考にするのよ」  床に積み上げた本の山を指差して、彼女はふふっと笑った。    今日の会場は、一人暮らしの彼女の部屋だ。  業務報告会が始まって五ヶ月、僕らはどちらからともなく、互いの部屋を行き来するようになっていた。
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