僕と十三人の恋人たち

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 舞台は、事前に事情を聞いてた運営側の人が止めた。彼女は顧問に引き摺られて袖に戻ったけど、しばらく立ち上がれなかった。    次の芝居が始まるからと退席を促され、彼女は茫然自失のまま、家に帰った。  「翌日の朝、部員は一斉に退部届を出した。でもね、あの日のステージは誰かが録画していたの。翌日教室に入ると、クラスの子たちがその動画を囲んで観てた。みんな、色んな事を言ってた。よくやるよとか、そんなことを」  何で舞台に立ったの?私だったら絶対やらない。自信あったの?一年で主役とって浮かれてたの?  心ない言葉の群れが、彼女を取り巻く。  耐えかねた彼女は教室を飛び出して、職員室に駆け込んだ。担任から退部届を貰い、その場で書いて顧問に突き付けた。  「舞台の上には、私が生きるのとは違う世界があると思ってた。でも、何もなかった。誰もいなかった。ただ、私を責めて嗤う視線があるだけ。孤独だった。怖かった。私はもう、あそこには立てない」  それでも、と彼女は両手でマグカップを握り、テーブルに額を擦り付けた。  「私は演じることをやめられない。今の仕事くらいしか、それを続ける方法を見つけられなかったの」  僕は黙り込んだ。  どんな言葉を掛ければ彼女の慰みになるのか、まるでわからなかった。  「…だからやめろなんて言わないで。危険があるのは、わかってる。でもあの仕事は私にとって、最後の砦なの。とても大切なの。あなたには、それをわかって欲しいの」  彼女はテーブルに突っ伏して、弱々しくそう呟いた。    演技をしていない素の彼女は、至極普通の女の子。  案外迂闊で、弱くて脆い。でも好きなものに関しては、一途で真摯で、情熱的な。  どんな役を演じたのかを僕に伝える彼女は、子供のように無邪気で、キラキラ目を輝かせて、光がこぼれるようだった。  僕は、そんな彼女が好きだったのだ。    「……次の仕事はいつ?」    尋ねた僕に、彼女は怪訝そうな目を向けた。  「十日後、だけど…」  「それまでに僕が用意する。君があの仕事以外で、舞台にも立たずに、演技を続けられる方法と場所を。それに君が納得したら、その仕事はキャンセルして。そしてその後も、依頼を受けるのをやめて欲しい」  「…用意するって…何を…」  ぽかんとした顔で、彼女は僕を見つめた。  「少し時間が欲しい。形に出来たら知らせるから…十日後の君の仕事に間に合うように。時間が惜しいから今日はもう帰るよ」  「えっ…ちょっと…」  戸惑う彼女を置き去りにして、僕は鞄を掴むと部屋を飛び出した。  
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