僕と十三人の恋人たち

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 何の準備もない尾行が、漫画や小説のように上手くいく筈もない。  ドアを開ければ来客を告げるチャイムが鳴り、店員が駆け付けて席に案内してくれてしまう。  店員に誘導されて通路を歩く僕と、入口にほど近いテーブル席に座る彼女の、目が合った。  さりげなく視線を外してごまかせるほど、僕は器用ではなかった。  あからさまに動揺して歩を止めた僕を見て、彼女はふっと薄く微笑んだ。  そして向かいの男性に気付かれないように、ひっそりと唇の前で人差し指を立てる。  何も言わないで、通り過ぎて。  彼女の瞳と仕草は、そう語っていた。  奥の席に案内された僕には、彼女らの声は聞こえない。  僕は食べたくもないオムライスをぐずぐずとスプーンで崩しながら、見慣れぬ彼女の快活な笑顔を、盗人のようにひっそりと眺めていた。    
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