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二日後、バイト先の書店で彼女に会った。
土曜日で学校は休みだ。昼早々に出勤すると、休憩室に彼女がいた。
小さな窓から差し込む弱々しい光を受けて、彼女の黒髪がじんと控えめに艶めく。
テーブルに肘をついて『女生徒』の文庫本を開くその姿は、いつもと何ひとつ変わらない、僕の知る本屋の君だ。
僕はそれに安堵すると同時に、どこか憤りに近い感情が湧き上がるのを感じた。
腹の奥底で、どろりと、重く。
そしてそれは多分、僕の表面に表れていたのだろう。
彼女はファミリーレストランで見せたのと同じ薄い笑みを、僕に向けた。
ぱたんと文庫本を閉じて、代わりに唇をやんわりと開いて、動かす。
「店長から伝言。今日、休憩三時からだって」
何の変哲もない業務連絡だ。
何を話すのだろうと緊張していた僕は、肩透かしを食らい脱力した。
「私は三時までなの。良かったら外で少し、話さない?」
拍子抜けした後の不意打ち。
僕はぴしゃりと背筋を伸ばして、何度も頷いた。
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