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日ノ宮雪乃――
十人が十人、一目見た瞬間に呆然とし、その容姿を形容する言葉を探して、
結局ただ口にするのは「銀色の……美少女」そんな、お話の中から出てきたような人物。
現実そのものと言ってもいい平凡なわたしとは全く違う生き物。
聞いた話によれば――あくまで聞いた話なのだけど
(女子校の学内では常にこう言った噂話が飛びかっているものなのだ)
・英国系のクォーターで富山生まれの十七歳(富山といえば白エビだろうか?食べてみたいな……)
・図書室の主、図書委員長として司書の先生の代わりと手伝いをしている。
・生徒会長、御崎七々瀬と並んで学院の最高傑作と呼ばれている。
・学校公認でモデルをやっている。
・謎解きが趣味?(漫画みたいだ)
・成績は意外と普通(どうせなら学年トップであってほしい勝手な願望だけれど)
・体があまり強くないらしく体育は見学が多い(これはイメージ通りだ)
・実家がとてもお金持ちという話もある。
そして――これは噂ではなく事実なのだけれど――
わたしがこの学校で最も忌み嫌う人。わたしにとっては銀髪の悪魔、いや悪魔ではまだ生ぬるい。
そう、魔王雪乃……
その人が今、じっとわたしを見つめながら話しかけてきているのだ。
これまで、登校中に見かけることはあっても、決して近寄らず、必要なら時間をずらしたりして避け続けていたのに、それも今日までだ。
バラの花束を持って登校するだけでも当面の間、肩身が狭い思いをすると思っていたのに
こんなところで声を掛けられてしまっては、
下手をしたら学園の語り草として後世に残ってしまうかもしれない。
さよなら……わたしの安寧の日々。
日ノ宮雪乃からの質問に、どういう言葉を返すか悩み半分、登校後のことを思い浮かべて憂鬱半分で、無言で歩き続ける。
ゆっくりと歩くわたしと日ノ宮雪乃の隣を生徒たちが「ごきげんよう」の挨拶とともに追い越していく。
並んで歩くと、十センチ程わたしのほうが背が高い。
それなのに足の長さは……横目で、自分のスタイルと比べてしまうとコンプレックスを刺激されて悲しい気持ちになる。
生徒達の挨拶は先輩にだけでわたしには(気のせいかもしれないが)とげとげしい視線だ。
何度も同じような挨拶と冷たい視線を浴び、思わず顔を伏せてしまう。
頬にバラの棘がちくりと刺さる。むせかえるようなバラの香り。
頬をさすって血が出てないことを確認してから、また前髪に触れる。
日ノ宮雪乃は挨拶をしてくる生徒にアルカイックスマイルを向けて返事を返しながら
「……朝から疲れちゃうね」わたしだけに聞こえる声でそう言った。
わたしはあなたのせいで疲れ切っているのですが?なんて当然言えるわけもなく。
「バラの花束を抱えて登校する女子高生って。なんだか事件の香りがしないかしら?」
口に手を当てて楽しげな様子で先輩がそう言った。
彼女の色々な噂の中で、なぞ解き好き、推理好きっていうのは本当のことなのかもしれない。
「事件って……別に……何にも変わったことはないですよ?」
気づくと通学路はわたしたち二人だけになっていた。
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