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先輩の大きな瞳がじっ、と見つめてくることは気になるけれど周囲に誰もいない状況に少しホッとする。
「三丁目のお屋敷っておばあちゃん一人暮らしの所よね?」
何も変わったことはない、と言ったのに日ノ宮雪乃は気にせずに話を続けてくる。
どうしても何か事件にしたいようだ。
「そう……ですけど……ってよくわかりますね」
初対面の緊張と個人的感情が相まってぶっきらぼうな口調になってしまう。
わたしのように人馴れしていない性格では、先輩のように誰にでもにこやかになることは難しい。
もっと美人に生まれていたら違ったのだろうか?
わたしがこんなふうに生まれていたら。そうだな、靴箱を開けると毎日ラブレターが入っていたり
校舎裏に呼び出されたり……そんなこともあったりなかったりしちゃって……
流石にラブレターは古いか……
そんな現実逃避の妄想に耽るわたしの様子に気づかないのか、ゆったりとした口調で日ノ宮雪乃は答える。
「だってあなたのおうちから通学路でバラのすごいお屋敷はあそこしかないでしょう?」
分かりきったことをなぜ聞くの?と言わんばかりの顔。
「私、この辺は大体はお散歩コースだから。健康のためによく歩くようにしてるの」
「ふふっ、健康のための散歩なんて、おばあちゃんみたいな趣味だなと思ったでしょ?」
そういうと日ノ宮雪乃はモデルの撮影のようなバッチリ決まった笑顔を向けてくる。
「散歩……いいと思いますけど……」
ババくさい趣味だなと思ってしまった心の内を見透かされてしまった。
とはいえ、実はわたしも散歩が趣味なので人のことは言えないのだが。
しかし、散歩が趣味だからと言って、路地裏の事情にそこまで詳しいものだろうか?
それに、わたしの自宅の情報はどこで手に入れたのだろう?
清心館女学院では生徒の九割が寮に入っているため、通いの学生は確かに珍しいには珍しい。
この坂を登らなくてすむなら寮生活も良いかも、と入学当時思ったものの
実の所、学生寮は学校の建つ丘のふもとにある。結局、学生は全員この坂を毎日登ることになる。
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