~バラにまつわるミステリー

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「プロポーズでもされたみたいな花束だよね」 「ふふふっ」 自分で言った冗談が思いのほか面白かったのだろうか。 肩を振るわせて笑いを堪えている。噂の中に笑い上戸が入っていたか思い返してみる。 「今時バラの花束……そんなプロポーズってあるんでしょうか?」 「私はそういうロマンチックなのも嫌いじゃないかな?」 自分で言い出したくせに、さして興味もなさそうな様子で日ノ宮雪乃はいう。 花束でプロポーズ、この世のどこかにはそういうものもあるのかもしれない。 少なくともわたしには全く縁がなさそうだ。自分がどんなプロポーズをされるのがいいのか 考えてみる、やっぱりチャペルかな、海辺の晴れた日で……また変な妄想に入りそうになるのを引き戻して「わたしは嫌いですね……」そっけなさを装ってそう言った。 時計を見ると同時に学校のチャイムが聞こえてくる。少し急がないと遅刻してしまいそうだ。  「おっと、もう予鈴がなっちゃったね」 ようやく話を切り上げられると安堵したのも束の間、思っても見ない言葉が飛び出した。 「そうだ、もう少し詳しいお話聞きたいから放課後、図書室に来てもらってもいい?」 「あ、いえ……」 面食らったわたしが、それはお断りしますと二の句を告げずにいると、畳み掛けるように続ける。 「ね!約束だから。すごく面白そうな話なんだから必ず来てね!逃げちゃダメよ」 私の返答も待たずに日ノ宮雪乃はパタパタと駆け足で校門をくぐると、二年棟へ向かってゆく。 変な話になっちゃったな…… でも行かなかったら面倒な事になりそうだ。 ううっ、『魔王からは逃げられない』ってこのことだろうか…… 嫌なことは早めに終わらせてしまうのがわたしのモットー と言うのは嘘で、本当は、どちらかというとギリギリまで引っ張る方なのだけど…… あの人に関してはそれはやめておいた方が良さそうだ。 以前もなんだか面白そうという理由で付きまとわれていた生徒がいたと聞く。 その子にとって、それは幸せな時間だったのかもしれないが、わたしには違う。 はぁ……しょうがないな本当に…… 今日は四限までだからお昼を食べたら、向かうことにしよう。 入学してから数回だけ訪れて、それ以来一度も足を踏み入れてない図書室へ。 (それもあの先輩のせいと言えなくもないのだがその話はまたにしよう) 教室に花瓶があるだろうか?職員室に行くとなると面倒だ。 わたしのような特に出来が良いわけでもない生徒にとって、職員室はなるべく近づきたくない場所の一つなのだ。シスターを探して声をかけなきゃ…… そんなことを思いながら、教室へ向かうのだった。
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