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ハァ……と大きくひとつため息をつくと覚悟を決めて立ち上がる。
随分とのんびりしすぎてしまった。あまり待たせると向こうから襲撃してきそうだ。
わたしの通学ルートを把握しているくらいだから、クラスを知っていてもおかしくない。
鞄を斜めがけにして、バラの花瓶を両手で抱える。
クラスと職員室、それにわたしの所属する部活――文芸部にバラを生けたのだが
まだ余りがあるので、図書室で引き取ってもらおうという算段である。
(流石に家にまで持って帰りたくない)
「いってら!夕方まで中間試験の勉強してるから」
急に深刻な顔になってケイがいう。
「マジで英語やばくてさー英語のシスターに朝、捕まっちゃって……」
「三好さん、あなたこのままで良いと思ってらっしゃるの?なーんて言われちゃったよ」
「似てる似てる。そりゃ勉強しないとね」
シスターのモノマネが存外にうまい。この子の特技として記憶しておくことにしよう。
「わかったよ。帰りの時間、合わせられそうなら、教室に寄る」
「あとで話聞かせてね?」言葉には出さないが、英語の試験対策にノートを借りたいの!
と目が訴えてくる。ケイがちゃんと勉強をはじめたのを見届けてから教室を出る。
九月も終わりに近づいている放課後の廊下は、夏休みもまだ終わっていないような、そんなゆるみきった空気に満ちていた。
ノートと引き換えについてきてもらう交渉ができたのに。しまったなぁ……
そんなことを思いながら、のろのろとした気乗りのしない足取りで歩く。
廊下の影をつま先でなんとなくよけながら、階段を登り図書室へと入る。
かぎなれた、古い本の匂いが出迎える。
この少しかびくさい匂いがわたしは本当に大好きで、自分の部屋のようにとても心が落ち着く。
貸し出しカウンターの奥、入り口から左手にある司書室――
日ノ宮雪乃と生徒会執行部のプライベート空間から手まねきが見えた。
手の動きに合わせて銀髪が上下に揺れている。
図書室には日ノ宮雪乃のファンの子達が本を読むふりをしながらチラチラと司書室の様子を伺っている。
その子達がわたしに厳しい視線を向けてくる。
その視線を避けるようにわたしは図書室の主のもとへ歩みを進めるのだった。
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