私の体は幸せでできている

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 女子たちが私の手を離し、後ずさった。  そんな中一人の女子生徒が慌てて口を開く。 「こ、この子が……こんなにクッキー渡されても迷惑だって」  は? 「そう、太りたくないのにクッキーを渡すなんて嫌がらせだって言って……」  花木田君が地面に座り込んでいる私を悲しそうな顔で見た。 「ほ、本当なの?」  違う、違う……!  慌てて首を横に振ろうとして、動けなかった。  このままそういうことにすれば、花木田君が私に近づくのは辞めるだろう。 「それで、俊哉君からもらったクッキーを捨てているのが見えたので……ちょっと注意を」 「そ、そうです、私たちは俊哉君のために……」  花木田君が、地面にばらまかれたクッキーに視線を向けた。  その目は泣きそうだ。  ……違うと声を大にして言いたい。  でも。モブの私が主人公な花木田君と話をしてしまったせいで……。  クッキーはこんな目にあったのだ。私の手に渡らなければ、誰かを幸せにしたはずのクッキーが……。  花木田君が小さく息を吐き出した。 「だからと言って、やりすぎだよ……」  花木田君が女子たちに顔を向けて睨みつけた。 「ご、ごめんなさいっ」  蜘蛛の子を散らすように女子たちが逃げていく。 「……美優ちゃん……あの子たちの言っていたことは……」  不安そうな声が上から降ってくる。 「わ、私……」  モブはもう退場する。 「最下層の豚だって……」 「は?」 「わ、私、最下層の豚って言われてるのっ!」  そんなことを気にはしてないけれど。でも、誰が聞いてもひどい言葉だと思う。  そして……私の容姿を見て、それは真実に違いないって誰でも思うだろう。 「もう、いやなのっ!だから、もう、クッキーはいらないから……」  花木田君が傷ついた顔を見せる。 「ご……めん。美優ちゃんがあんまり幸せそうな顔で食べるから……甘えてしまった……。本当に……ごめん」  深々と頭を下げ、花木田君はハンカチをポケットから出して私に差し出す。 「返さなくていいから」  そういって、私の手にハンカチを渡すと中庭から去っていった。  手元に残された真っ白なハンカチ。 「涙を拭けというの?私は泣いてない……」  ぽたりと、地面に水滴が落ちる。  水滴の横にはクッキーがある。
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