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ああ、そうか……。顔を押し付けられたから、汚れているのかな?だから、ハンカチを……?
だって、私は、泣いてなんか……。
ぽたり、ぽたりと涙が落ちる。
地面に落ちたクッキーを拾い上げる。
幸い生い茂った草の上に落ちたため、土や砂まみれになってしまったわけではない。
軽く、手で汚れを払い、口に運ぶ。
考えて工夫して改良して……一生懸命作られたクッキーをごみのように扱うなんてできない。
「美味しい……」
あれ……。
おかしいな。どうしてだろう。
美味しいものを食べれば、悲しいこともつらいことも忘れて幸せな気持ちになれるはずなのに。
ぎゅっと握り締めたハンカチをスカートの上に広げて、1枚ずつクッキーを拾い上げて載せていく。
胸が詰まって、今は食べられそうにないよ。
なんで。
どうして……。
モブなのに。ううん、モブにだって、感情はあるんだ。
花木田君は、クッキーを食べる私を笑顔で見てくれた。
どのクッキーがどう美味しいのかって話も、真剣に聞いてくれた。
よくそんなに食うなと軽蔑した目や、流石食べることだけは得意だよなという皮肉めいた言葉も私に向けてこなかった。
本当に幸せそうな顔して食べるねと……。食べて幸せな気持ちになることを否定しなかった。
美味しいっていうと、嬉しそうな顔をしてくれた。
そんな時間が特別でキラキラして。
やっぱり、そんな時間がなくなっちゃうのは寂しいよ。
土曜日、日曜日は学校がない。
月曜日、何事もなく1日が終わった。
火曜日、コンビニで新しいスナック菓子が出ていた。
「あ、春限定イチゴ味」
手を伸ばしてはみたものの、なぜか買う気にならなかった。
水曜日、春限定のイチゴ味を買った。
「美優、久しぶりのお菓子だ!食欲戻ったの?」
「うん、ごめん、心配させて」
お弁当を食べた後に、机の上に春限定イチゴ味のスナック菓子の袋を置くと、廊下から手が伸びてお菓子が目の前から消えた。
「こんなのじゃなくてさ……これ、食べてほしいな」
代わりに机の上にクッキーの入った袋が置かれる。
「え?」
手の主を見ると、花木田君だ。
困ったようなちょっと緊張したような顔をしている。
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