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でも、いらないと冷たく断ることもせず、いらないからとゴミ箱に捨てることもせず有効活用しただけマシ?
とはいえ……。
「これを作った子、すごくお菓子作りが上手なことに間違いないわ。せめてすごく美味しかったと伝えてくれるといいね……」
ななみんがため息をついた。
「まぁ、そうだね。花木田俊哉が唯一いいことしたとすれば、人一倍おいしく食べてくれる美優に渡したことね……」
授業が終わり、美術部へ向かうななみんと別れ、一人昇降口に向かう途中花木田君の姿が見えた。
一人で歩いている。生徒会室へ向かう途中だろうか?
いつもの私なら絶対そんなことはしなかったと思う。
でも、なぜか今日は自然と体が動いていた。
「花木田君っ!」
小走りで駆け寄ると、振り返った花木田君はいつものように優し気な笑みを顔に浮かべている。
「ああ、美優ちゃん。どうしたの?」
「えっと、その……」
向き合ってから、我に返った。ああ、話しかけるなんてなんてことを!でも、言わなくちゃ。
「昼にもらったクッキー、あれ、手作りクッキーですよね?本当においしくて。その……作った人に伝えてほしくて。サクッとした食感もさることながら、絶妙な甘さと、紅茶の香りを引き立てるためにバターではなくオリーブオイルを使ってあるところとか、本当に感動するくらいおいしかったです」
花木田君の顏からいつもの笑みが消えた。驚いたような顔をしている。
あれ?
もしかして、手作りクッキーだって知らなかった?人に気軽に上げたことを後悔してるとか?
「そんなに、美味しかった?」
「はい。あの、幸せがまた、体にたまりました」
ぽんっとお腹をたたいて見せると、花木田君が顔を赤くして視線をそらしてしまった。
あれれれ?もしかして、笑いをこらえている?流石にちょっと体を張って女子らしくない行動しちゃったかな?
「あの、とにかく、今まで食べた紅茶クッキーの中で一番美味しかったので、幸せな気持ちになれたと、えーっと、作った人に、もし感想を聞かれたらそう伝えてくださいっ!」
花木田君は、視線をそらしたまま小さくああと返事をした。
笑いをこらえながら声を絞り出したのかな?げらげら笑ったら私を傷つけると思ったのかな?
ななみんのいうように嫌な奴ではなさそうだよ?
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