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出会い
ぼくがその犬を拾ったのは、近所の川にかかる橋の中ほどだった。彼女にフられてとぼとぼと歩いているときに、足の短い犬が橋の手すりに前脚をかけているのが見えたのだ。
わずかに黄ばんだ白の毛並みを持つその犬は、流れのはやい川面を見つめて、鼻から長く息を吐いた。まるでこれから飛び込んでしまおうかと思い詰めている風情だった。
ぼくはなんだか、放っておけなかった。
「なあ、何を考えてるのか知らないけど、落ちたら死んじまうかもしれないぜ」
犬はてらてらと光る鼻面をぼくに向けると、「へっ」という音とともに舌を出した。なんだか馬鹿にされた気分だった。
「ぼっちなのか? ぼくみたいに」
犬はまた、「へっ」と音を立てた。
「お前、野良じゃなさそうだけど、飼い主はいるのか」
犬の首には茶色く染められた革の、飾りのない首輪がついていた。そこには、「セサミドレッグズ」と焼き印が押されているだけで、他の情報はなかった。
「お前の名前か? セサミって呼んでいいか」
犬は返事をしなかったが、吠えもしなければ逃げもしなかったので、そう呼ぶことにした。
「セサミ、行くあてがなくて、腹がへってるならついてこい」
ぼくが歩き出すと、セサミはちょっとためらってから短い足を精いっぱい動かしてついてきた。
そうしてぼくは、たれ目でとぼけた顔の犬、セサミの飼い主になった。
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