元カノが自殺未遂?

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元カノが自殺未遂?

 地下鉄表参道駅の階段を上り、南青山へと向かう。  十八まで四国の田舎に住んでいた私は、何年経ってもまだ『南青山』という響きに弱い。お洒落の代名詞のように思えて気が引けてしまうのだ。  高校の同級生である和真も私と同じでまだ東京に馴染んでいない。だから、私たちのデートはいつも大塚や池袋の気軽なカフェや居酒屋がほとんど。    でも今日は交際記念日なのだから、たまには素敵なお店で食事したい! と無理を言って、ここのイタリアンに予約を入れたのだ。 (和真来てるかな……一人だとちょっと気後れしちゃうな)  そう思ってスマホを見ていると、ちょうど和真からLIMEだ。 (もう着いたのかな?)  ところが、画面に映っていたのは『ごめん』という文字。 (えっ、なんで)  慌ててアプリを開くと、和馬からいくつもトークが飛び込んできた。 『ごめん、行けなくなった』 『太一から連絡あって』 『麻由が自殺未遂したって』 『今から行ってくる』 (何? どういうこと?)  麻由というのは和真の元カノだ。と言っても、高校時代にほんの数ヶ月付き合っただけ。和真のほうが振られたのだと、後で彼から聞いた。二人が別れた一年後に、和真と私は付き合い始めたのだ。 (何でその麻由が今頃? しかも太一くんから連絡って)  LIMEじゃ埒があかない。私は和真に電話をかけた。  トゥルル……トゥルル……なかなか繋がらない。着飾った人が行き交う青山通りで、私はイライラしながら和真の声を待った。 「――梨沙」  暗い声で和真が電話に出た。電車の音とざわめきがかすかに聞こえる。 「和真? 何があったの? 麻由が自殺未遂って……どうして和真が行かなきゃいけないの?」 「ごめん、太一と一緒に行くし心配する必要ないから。命には別状ないみたいなんだけど、俺が行かないと死ぬって言ってるらしいんだ」 「だからどうしてそんなことになってるの? 和真、私に内緒でずっと麻由と会っていたの?」  和真の声に苛立ちが乗って私の耳に飛び込んでくる。 「そんな邪推をするなよ! 俺だって今日突然太一から連絡もらって驚いてるんだ。とにかく、こんな事態なんだから行ってやらなきゃならないだろう」 「……だったら私も行く。一緒に行くわ。どこに行けばいいの?」 「ダメだ。麻由は興奮しているだろうし梨沙が来たら逆効果だ。とにかく、今日の予定はキャンセルしてくれ。また今度埋め合わせるから」 「だって、今日は……」  プツリと電話が途切れた。だって今日は記念日なんだよ、ってそれすら最後まで言わせてもらえなかった。  悔しくて切なくて腹立たしいのを我慢して、レストランにキャンセルの電話を入れた。コースの予約をしていなかったのがせめてもの救いだ。お店に迷惑をかけたくはないもの。  電話を切り、スマホをぼんやりと見つめていると不意に目頭が熱くなってきた。こんな所で泣いちゃダメ。スマホを握りしめて泣いてるなんて、振られましたって言ってるようなものだ。  涙をグッと堪えて顔を上げた時、目の前に見知った顔があって驚いた。 「光宗さん?」 「木藤マネージャー……」
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