勘違いの結末

3/5
5472人が本棚に入れています
本棚に追加
/128ページ
「ただいま」  和真が仕事から帰ってきた。お腹が空いていた麻由は、早速鍋に火を入れる。 (また鍋か)  和真はガッカリしつつ部屋着に着替えをする。麻由は洗濯はしてくれるけれど畳んでくれないので、取り込んだまま山積みになった中から服を探さないといけない。  和真の家事分担は、最初に二人で話し合って無しと決めた。これこそ和真の求めていたことであり、やっぱり麻由を選んで良かったと思っていた。専業主婦なんだから当然だけど。  だが妊婦であるのをいいことに麻由は何もしてくれず、気がつけば和真の担当する家事は梨沙と暮らしていた頃よりもずっと多くなってしまった。  風呂掃除、ゴミ出し、皿洗いに買い出し。休日は部屋の掃除や布団干しが待ってる。  つわりが終わるまでの我慢だと思いつつ、何で働いている俺が家事までやらなきゃならないんだと内心腹を立てていた。 「和真、ご飯出来たよー」 「ああ、わかった」  市販の鍋の素に野菜と豆腐を放り込んだだけの鍋。八王子の部屋では美味い煮物を出してくれていたのに、今は味噌汁すら作らない。なんだか騙されたような気分になる。  テレビでは九時のニュースが流れている。それをぼんやり聞きながら食べ飽きた鍋をつついていると、麻由が急にはしゃいだ声を上げた。 「ほら、和真。木藤グループの百周年パーティーの話題だよ! 今日夕方のニュースでもやってた。芸能人も来てて凄いよねー、木藤グループって」  チラリとテレビを見るとセレブなパーティーの様子が映し出されていた。豪華なホテルに着飾った人々。俺とは違う世界の住人だ。 (ああ、麻由は俺の会社が木藤グループだと間違えてるんだな。お客さんにもよくいるんだ、そういう人……)  俺の会社は関西が本社の【木藤(きとう)不動産】で、全く関係がない会社だ。  木藤グループなのは【木藤(きふじ)地所】。俺の会社とは全然規模が違う。  説明してやらなきゃな、と思った時、俺の目はテレビに釘付けになった。 (梨沙……!)
/128ページ

最初のコメントを投稿しよう!