十一 次の日の病欠

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十一 次の日の病欠

 雲回先生から説教された次の日の朝、起きると体がだるい。頭がすっきりしない。あんなことがあった次の日だからだろう、今日は学校で米谷に謝らないと。早く謝ってこの件は終わりにしよう。いつまでも引きずっていても仕方ない。  ベッドを出て窓を開けて外の光を浴びる。大丈夫だ。寝起きで少し体が重いだけだ。しかし目の周りが痛い。重い。少し吐き気がする。気持ち悪い。よたよたとトイレに向かう。便座に座る。うわーっ気持ち悪い。吐いたらすっきりするかな。でも吐けなそう。今立ち上がって顔を便器に向けて吐けるかどうか試すのはつらい。とりあえずこのままで。排便をする。便がたくさん出た。吐き気の方は大分楽になった。しかし目元が痛い。頭がだるい。  トイレを出る。大丈夫だ。ちょっと頭が痛いだけだ。家を出て外の空気を吸って体を動かしたらきっとすっきりする。今日は絶対米谷に謝らないと。  寒気がしてきた。やっぱり気持ち悪い。何も食べられない。ちょっと立ってられない。でも学校行かないと。きうっちゃんとショーに悪い。二人は無条件でオレの味方になってくれた。全部悪いのはオレなのに。なのにオレだけ学校に行かないなんて。逃げるように学校を休むなんて。とにかく気持ち悪くなって早退することになってもいいから学校にだけは行って米谷に謝らないと。雲回先生はきっとしつこく米谷に尋ねるはずだ。「栄野謝りに来たか」「まだです」「そうか」。栄野口では「はい」と言っていたくせに男らしくない。そうしてきうっちゃんにも「栄野まだ謝りに来ないそうですよ」とチクチク言い出す。「夏樹君今日は体調悪くて学校休みです」  あー気持ち悪い。頭で色々想像すると頭ががんがんする。目の前がくらくらする。ダメだ。ムリだ。 「かあちゃん。何か気持ち悪い。朝飯ムリ。ちょっとまた横になる」  台所でガチャガチャと忙しそうに動いていたかあちゃんがエプロンで手を拭きながら出て来る。冬馬がかあちゃんにまとわりつく。 「え、どうしたの。ほら、冬馬そんなくっついてこないで、お着替えしてらっしゃい」  かあちゃんは冬馬の頬をなでると、ポンとその背中を叩いた。それを合図に、冬馬がちょこちょこと向こうに走って行く。 「どれ、ちょっと見せてみなさい」  先程冬馬の頬をなでた手がおでこに当たる。ひんやり冷たい。 「あんた熱があるわね。ベッドに横になってなさい」 「寒い」 「厚手の布団出したげるから」  フラフラと自分の部屋に戻る。ベッドにもぐり込む。体がガタガタ震える。  かあちゃんが押入れから真冬用の布団を出してくる。外に出て物干し竿にかけて布団叩きで二十回くらい叩く。布団と布団カバーを持って部屋に入って来る。 「ちょっと待ってね。今布団カバーに入れるから」  かあちゃんが床にパッと布団を広げる。その上にパッと布団カバーを広げる。布団カバーと布団の止める位置を確認している。今使っている薄手の布団を口元までかけて横向きになり、てきぱきと作業するかあちゃんを見ている。あー気持ち悪い。助けてかあちゃん。寒い。 「はい完成!」  かあちゃんが布団をがばっと引きはがす。タオルケット一枚になる。ぎゃあー寒いっ。すぐに厚い頼もしい物体が体全体をどさっと覆う。これは助かる。全然違う。これなら眠れる。 「熱計ってみましょう。今体温計持ってくるわね」  今日は学校休みか。「夏樹君、今日は体調悪くてお休みです」「そうですか。本当に体調悪いんですかね。心にやましいことがあるからこうなるんですよ。学校では先生に、家では親に甘やかされて育ったんでしょうね」。この布団のお陰で体の震えは大分治まってきた。米谷に、謝って。フローラ。フローラ……。  そのまま眠ってしまった。  目が覚める。まだ明るい。夕方くらいになってしまったか。時計を見る。十二時半。昼時か。寝たのは三時間くらいか。体は。どうか。目の周りの痛みはほとんど治まっている。もう寒くはない。起きられそうだ。 「あ夏樹起きたの。大丈夫?」 「うん、大分いい」 「何か食べられそう」 「多分」 「食べられるなら食べた方がいいわ。今お粥作ってあげるわね」  かあちゃんが台所に行く。食卓の自分の席に着く。 「かあちゃん、大丈夫そうな感じだから、午後から学校行くかな」  台所のかあちゃんに少し声を上げて言う。 「あんた何言ってるの。いいから今日は休みなさい。ここで無理しても何にもならないよ」  学校ではオレがいない中で授業が進んでいる。オレのいない休み時間。ショーたちどうしてるだろう。コム新しいギャグでみんなを笑わせているのかな。オレの知らない新しいギャグ。  一組のやつら夏樹が謝りに来ないって思ってんだろうな。ほら見たことかと。何で今日に限って調子悪くなんだよ。オレ基本無遅刻無欠席なのに。学校なんて休んだのいつ以来だろう。 「はいどうぞ。おかわりもあるわよ」  卵粥。れんげで一口すする。おいしい。かあちゃんは昨日のことを知らない。  ショーも、きうっちゃんも、かあちゃんも、みんなオレにとてもよくしてくれる。こんなどうしようもないオレに。雲回先生だってきっと間違ったことは言っていない。 「かあちゃん、もっとちょうだい」 「はいはい」  もう一杯、先程より大盛りで出してくれる。今度はきんぴらごぼうとウィンナーソーセージも併せて持ってきてくれた。  おいしい。どんどん食べられる。だるさが少し残る体でお粥を食べ続けた。
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