七 運動会前半

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七 運動会前半

 土曜日。運動会当日。よく晴れている。今週は先週と打って変わって晴れの日が続き、雨は一度もなかった。なので六人で毎日リレーの昼練をした。  今日はとうちゃんかあちゃんに冬馬の家族三人で応援に来るって言っていた。冬馬は歳の離れたオレの弟。今年幼稚園年長組。なので小学校は一緒にならない。  開会式の入場が終わり各クラス校庭に整列している。さすがにオレら六年三組も静かにきちんと並んでいる。校長先生が壇上で挨拶をしている。 「えー、今日は雲一つない青空で」  何人もが空を見上げる。本当に雲一つないかチェックするのである。オレもやっちゃうんだよなーこれ。コムは早速薄い雲の線らしきものを見つけ、「雲あんじゃん」と前のやつに小声で話しかけている。  フローラもみんなと同じ体育着を着て青い鉢巻きを巻いている。一組が白、二組が赤、三組が青の鉢巻きだ。  開会式も終わり各クラスの定位置に戻る。あ、とうちゃんたちいた。とうちゃんがこちらにカメラを向け、かあちゃんと冬馬がこちらに手を振っている。  運動会は三クラス対抗戦だ。一年から六年までの各クラスの総合成績で競う。最後の六年のクラス対抗リレーは、他の種目の二倍のポイントがつく。ここで勝負が決まることもあり、責任重大だ。 「まずは一年生の玉入れです」  ちっちゃな一年生がきちんと三列にクラスごと並んで入場してくる。冬馬とあまり変わらない。冬馬も今年一年だったらよかったのに。それでもただ見ているよりクラス対抗だから見る方も張り合いがある。 「行けー三組! ガンバレー」  みんなで声を上げて応援する。六年生が率先して応援することで、下の学年の三組にも応援する雰囲気を伝播させる。六年三組は応援団を作っていて、団員一人一学年を担当する。それで盛り上げたい局面になったらそれぞれが担当の学年のところに行き、全学年の三組で声を合わせて 「行け行け三組」 「行け行け三組」 「押せ押せ三組」 「押せ押せ三組」 と応援するのだ。  ちっちゃな子たちが地面に転がる玉を拾って低い位置にある自分たちのクラスのカゴめがけて玉を投げている。 「行けー三組!」  青の鉢巻きの子たちを応援する。もしこの中に冬馬がいて青以外の鉢巻きだったら声では三組を応援しつつも内心は冬馬を応援するんだろうな。  冬馬の方を見る。玉入れを見てきゃっきゃ飛び跳ねている。かあちゃんに何か言っている。そうだよな。自分と同じくらいの子たちが何か楽しそうなことしてるんだもんな。一緒にやりたいよな。 「はーい、終了でーす」  放送委員のアナウンスが響く。基本的に場内アナウンスは全て五、六年の放送委員が行う。 「それでは各クラスの玉の数を数えます」  各クラスの担任の先生がカゴから一つずつ玉を取り出して青い空に向かって投げる。 「いーちっ、にーいっ、さーんっ」  次々と玉が取り出される。あ、三組が一番最初に終わっちゃった。 「ドンマイドンマイ!」  途中各学年ごとのダンスがあったり皆で歌を歌ったり。  あっという間に午前の部が終わり、昼休み。家族とお弁当を食べる。ショーの家と一緒。ウチのかあちゃんとショーんちのお母さんがオレら幼稚園の頃から仲がいいんだ。  フローラのお父さんとお母さんも応援に来ている。二人とも背が高く、金髪で目立つ。お父さんは口髭と頬髭を生やし、映画監督のよう。それでお母さんがきれいな女優さん。ウチのとうちゃんかあちゃんとは雲泥の差。まあでもとうちゃんかあちゃんの二人とも応援に来てくれるのはうれしいんだけど。 「ほら、夏樹、おにぎり、こっちがしゃけ、こっちがおかか」  かあちゃんが弁当箱を差し出してくる。しゃけのおにぎりを食べる。 「夏樹君ウチのも遠慮なく食べてね」  ショーのお母さんが言ってくれる。 「ショー君もだよ。ウチのもどうぞ!」  ウチのかあちゃんも負けじとショーにウチの弁当を勧める。家族が一緒だとオレもショーもいつものようには話さない。何かちょっと恥ずかしい。早く食べ終わってショーとここ離れたい。来てくれるのはうれしいんだよ。みんなでゴハン食べるのも楽しいんだよ。でも何かね。  ウチのアスパラガスの肉巻き、ショーんちの唐揚げ、ウチの玉子焼き、ショーんちの玉子焼き。不思議とよその家の弁当って不思議な味がするんだよな。まずいってわけじゃなくて、おいしいんだけど、何かこうニオイがウチのとは違うと言うか。それで結局自分んちの方を多く食べてしまう。ショーもきっとそうなんじゃないかな。  お昼ゴハンのときだけはあちこちで鉢巻きの色が三色交じっている。違う色の鉢巻きが一緒にゴハンを食べている。兄弟で違う色だったり、友達同士違う色だったり。  フローラたちはどうしているだろう。混雑する周りを見回す。家族三人だけで食べているのだろうか。それだと少し寂しいんじゃないか。ウチんとこ来てもいいのに。でも男子二人でクラスの女子を誘ってってのもちょっとハードル高いよな。あ、いた! 楽しそうに家族で笑ってる。千雪の家族と一緒だ! ナイス千雪! 千雪のお父さんとお母さんかな、フローラのお父さんお母さんと何か楽しそうにしゃべってる。千雪英語すげーからご両親も英語ペラペラなのかな。何にしてもよかった。少しほっとする。と隣でタコさんウィンナーを食べているショーがこちらを見てにやつく。 「何だよ」 「何でも」  ショーが訳知り顔で笑っている。こいつ!  あんまり食べ過ぎてもリレー走れなくなっちゃうからこの辺にしてと。立ち上がると 「あら夏樹もういいの。まだおかずたくさんあるわよ」  かあちゃんがすかさず話しかけてくる。 「あんまり食べると走れなくなるから。終わったら食べるよ」 「そう?」  続いてショーも立ち上がる。 「じゃオレも」 「ショー行こうぜ」 「おうっ」 「あ、その前に二人の写真撮ったげるよ」  ウチのかあちゃんが二人を呼び止める。  ショーと二人その場に立つ。お揃いの青い鉢巻き。とうちゃんがカメラを構える。ショーのお父さんも同じくカメラを構える。かあちゃんたちもスマートフォンで写真を撮る。 「冬馬も入りなよ」 とかあちゃんが言う。  二人の間に冬馬を立たせる。ショーもいるので冬馬は少し恥ずかしそう。三人の写真も撮ってもらい、二人その場から離れた。途中フローラたちの近くを通った。ちらっとフローラを見るとフローラもこっちに気づいて軽く手を振ってきた。ちょっとどぎまぎして 「おうっ」 とだけ小さな声で言った。隣でショーは気さくに手を振っている。  クラスの方に戻るときうっちゃんがいた。 「あんたたちちゃんとゴハン食べた?」 「おうっ!」 「リレー任しといてよ!」  きうっちゃんがいると何か落ち着く。
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