月花を慰するのは、従順な舌

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月花を慰するのは、従順な舌

「それではお隣、失礼します」  一言断ってから、エヴェラウドは私を後ろから抱きしめるようにして、シーツの上に横になった。 「んっ……」  彼は私の首元に、そっと唇を寄せた。  跡がつかぬように、肌の表面に触れるだけの優しいキス。それだけで、乾いた土に水が一滴落ちたような感覚が身体に広がった。  そして一滴では足りないとばかりに、心は優しい口付けを更に求め始める。  これは、今回が初めてではない。  手指を私の腕に滑らせながら、肩へ、背中へとエヴェラウドはキスを落としていく。そうしていくと、彼と私の香りが混ざり合っていくのだった。  絡み合う香り。されど、決して身体が交わることは無い。  ドレス越しに、彼の手が胸元に触れる。階段を一段ずつ上るようにして、私の体温は徐々に高まっていた。  けれども今宵は蒸し暑く、肌が汗ばんでいくのがやや不快であった。 「エヴェラウド。……ドレスを」  端正な指先で、丁寧にドレスが脱がされていく。  そして私は、上下ランジェリー姿となった。下着の奥まで彼に知られているので、抵抗は無い。  熱の広がり始めた肌を、十本の指が巡る。  段々と意識がぼやつき、理性を手放し始める。そして私は、都合の良い妄想を始めるのだった。  少なくとも、彼には愛されているのだ、と。  カラン、とグラスの中の氷山が崩れる音がした。見れば、氷の沈んだ水面には、先程の満月が映っていた。  嗚呼。どうして嫌なもの程、目につくのだろう。 「月なんて、大っ嫌い」  誰に言うでもなく、私は小さく呟いた。  婚約破棄された時、ルシアノはアリーチェを太陽のような女性だと言った。どうやら、彼女の貴族らしからぬ純粋さと温かみに惹かれたらしい。 「月のように冷淡なお前とは、全くもって大違いだ」  彼は私に、そう言い捨てたのだった。  その瞬間を思い出し、私は唇を噛み締めた。  彼に好かれるよう、そして太陽になれるように、長い間私はずっと努力してきた。  しかし結局、正反対の月と評され婚約破棄されるなど、とんでもなく皮肉なことである。 「……遠い砂漠の国では、月は慈悲深さの象徴と聞いたことがあります」  愛撫を続けながら、エヴェラウドは耳元で囁くように言った。 「反対に太陽は浅はかさの象徴だとか。ちなみに、雨は恵みをもたらす良い天気と呼ばれているそうです」 「……そう」 「慈愛に満ちた月を愛する私からすれば、あの男の言葉は……聞き捨てならない暴言でございます」 「え?」 「いえ、失礼しました」  聞き返したものの、エヴェラウドが応えを返すことは無かった。  肌は薄く赤みがかり、下着の奥が切なく疼き始める。もう既に、身体は彼に触れられる準備を終えていた。  私が膝をすり合わせたのを見て、エヴェラウドは私の足元へと移動した。 「お履き物、失礼します」  ショーツが下ろされ、太腿からふくらはぎへと落ちていく。  これ以上待たされていたならば、きっと淫らな蜜がクロッチと秘花を結んでいたに違いない。主人に恥をかかせないという意味では、この犬は非常に優秀である。  脱がしたものを折り畳んでベッド脇に置いてから、エヴェラウドは私を仰向けに寝かし直したのだった。  下着が取り払われ、彼の眼前に隠された場所が晒される。  初めての時は恥ずかしかったものの、今や羞恥よりもこれから与えられる快楽への期待の方が大きい。  外気に触れた秘所が、やけに涼しい。臀部がシーツに擦れて、擽ったい。平素感じることの無い妙な感覚は、この行為が非日常であると私に自覚させるのだった。 「……それでは、失礼します」  手拭きで秘部を軽く拭ってから、エヴェラウドは私の股の下にハンカチを敷いた。あくまでここはゲストルームなので、彼なりの気遣いだろう。  脚を曲げて開脚させた後、エヴェラウドは、艶を孕んだ陰唇に接吻したのだった。  それは待ち焦がれていた、''肯定''の証。 「んっ……」  彼はまずは秘花の周りの谷をぐるりと舌でなぞり、唾液で潤していく。時折流れ出た蜜を舐めるようにして、花弁の裏側へ舌を滑り込ませた。  舐めるというよりも、撫でると言った方が正しいかもしれない。  淫蜜が秘花の下へ伝っていった頃合いで、アヌスに舌先がやって来る。皺を一本ずつなぞるようにして、エヴェラウドは丁寧に舐め上げていった。  限りなく汚らわしい場所への口付け。それは、自分が無条件に認められているのだと錯覚させた。
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