歪む世界の上で

　櫻は俯き、両手を固く、震えるほど固く握りしめながら、絞り出すように言った。
「私は、あなたの世界を……認めません。認められないの。ほかの人が……みんな死に絶えた世界なんて」
　そのときの惣一郎の顔を、晶はどう表現したらよいかわからなかった。驚きとも、悲しみともつかない顔で、彼はただ口をつぐんだ。無表情にも見える顔が、急速に色を失っていく様だけが、彼の受けた衝撃の激しさを物語っていた。
「わかっているの。あなたがここまでくるために、どれだけのものを犠牲にしたか。でも……だからこそ、認められない……私はただ、あなたに幸せになってほしかった」
　彼女の言葉のあと、その場に長い沈黙が訪れた。四人もの人間がいながら、その中の誰も、一言も話そうとはしなかったのだ。
　そして、永遠にも思える数分間が過ぎた頃、惣一郎は目を閉じ、わずかに俯くと、弱い笑みを浮かべた。
「君がいなくなった世界で……僕が幸せになれると思ったのかい？　僕が生きる理由は、君しかなかったのに」
　それを聞いた瞬間、櫻は両手で顔を覆った。その動きで、彼女の黒髪とドレスの裾が、美しく翻る。