歪む世界の上で

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「確かにお前は、俺の力を監視していた。俺が力を使ってお前に不都合なことをすればわかるように。だが俺は気付いた。お前が監視していたのは、俺の力の出力だけだ。俺が力を使えば、お前にはわかる。お前には、それで十分だったんだ。だからお前は見落とした。俺が自分の力を、本当は何に使っていたのか」  惣一郎は黙ったまま慧の言葉を聞いている。 「俺はいつも、晶と一緒に歪みを消す振りをしていただけだったんだ。ほかのことに力を使っていれば、俺の力の出力が上がっていたとしても、お前は納得する。俺はいつも、お前に気付かれない程度に低い出力でこの子に力を与え続けた。一度に渡せるのは、吹けば消えてしまうほどのわずかな力だ。それこそ、お前にも感知できないほどのわずかな力を渡すことを、俺は十年以上、毎日のように続けた。だがそれで、この子は自分と俺のことまで、守ることができるほどの力を得た」  惣一郎はもはや何も言わず、俯いたまま動かなかった。
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