歪む世界の上で

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「誰のことかわかる? それは、お前が力の核を埋め込んで、自分の身勝手な欲望に巻き込んだあの地球に生きる能力者って呼ばれる人たちのことだよ!」  晶は叫んで、彼方に見えている地球を指さして見せる。 「彼らは全世界で連絡を取り合って、みんな同じ時間にこっちの世界の膨張を抑えるために力を尽くしてくれているんだ。彼らのおかげで、こっちの世界の膨張は最小限にまで抑え込まれてる。わかる? これが俺たちの切り札。お前が馬鹿にし続けた、普通の人間の力だよ!」  晶の叫びに、惣一郎は初めて衝撃を受けた。そのとき、目を見開いて立ち尽くすその姿に、わずかな音と共に寄り添う者があった。ずっと脇に控えて見守っていた、櫻だった。  彼女は手を伸ばし、惣一郎の手を握ると、悲しげな口調で言った。 「……あなた。私は、あなたに感謝しています。この上もないほど。でも、伝えなければならないことがあるの」  静かに自分の前に立つ彼女を見る惣一郎の顔に、この時純粋な疑問の色が浮かんでいた。天才と呼ばれた彼が、今彼女の言わんとすることを理解できずにいるのだ。
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