歪む世界の上で

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「君たちにも、すまないという言葉だけでは償いきれないほどの罪を犯した。それに、おそらく僕の力を全て使っても、僕が奪ってしまった全てのものを返すことはできないだろう。だから僕はこれから、自分にできる最大限の償いをする」  そう言うと、惣一郎は隣に立つ、最愛の人の手を取った。 「櫻、今度は一人で逝かせはしない。最後まで一緒だ。信じてくれるかい?」  櫻は顔を上げ、惣一郎の顔を見つめて微笑んだ。涙の跡が残るその顔には、穏やかな笑みと、惣一郎に対するゆるぎない信頼があった。 「奪ったものは返せないが、せめてこれから失われないことは約束しよう。僕がいなくなったあと、こちら側の世界はなくなり、完全に元の状態に戻るだろう。人々に埋め込んだ力の核も全て消滅する。  償いとして、ずいぶん不完全なことは承知している。だがどうか、これで許してほしい」  その言葉に、慧は静かに頷いた。晶はその横顔を見上げ、それから惣一郎の顔を見て、静かに息を吐き出した。  晶にとっては、惣一郎に一番苦しめられたのは、間違いなく兄だったから、その兄が頷くなら、彼が異論を差しはさむ余地は存在しなかった。
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