歪む世界の上で

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 その様子を見ていた惣一郎は微笑み、ありがとう、とだけ言った。  そしてそのまま、彼は傍らの櫻を伴い、彼女が眠り続けていた櫻の巨木の根本へ歩み寄った。そしてその幹に触れ、静かに目を閉じた。  すると、巨木は惣一郎の力に応えて、再び真珠色の輝きを強くした。その光の中で惣一郎は、櫻と共に振り返り、再び慧と晶の方に向き直った。 「君たち二人は、僕が地球へ送り届けるから心配はいらない。それでは、長いこと迷惑をかけてしまったが、これで最後だ」  惣一郎の言葉と共に、今まで三分咲き程度だった巨木の花が、一斉に開いた。緑がかった青い花が一気に満開になり、すぐさま吹いてきた強い風に吹き散らされた。  慧と晶は、視界いっぱいに吹きすさぶ青い花吹雪に、思わず腕を上げて顔を庇った。慧が顔を庇っているのとは逆の腕を伸ばして、晶の体を自分の腕の中に抱え込む。  そして晶は見た。兄の腕と、その向こうの花吹雪の向こうに寄り添って立つ惣一郎と櫻の姿を。  向かい合った二人は互いの手を取り合い、微笑み合って立っていた。やがて抱き合った彼らの姿は、強烈な光にかき消され、見えなくなっていったのだった。
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