歪む世界の上で

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 そこで晶は、さらに別のことにも気が付いた。彼の顔に見覚えがあったのだ。少し考えて、晶ははっとした。ほかでもない、桐生惣一郎の顔だ。  ということは、この少年は幼い頃の桐生惣一郎だということになる。彼は自分と同じ力を持つ者を求めて百年彷徨ったと言っていた。ということは、計算すると西暦一九二〇年代。今晶が見ているこの時は、大正時代ということになる。  部屋に入ってきた少年は無言のまま椅子のうちの一脚を引き出して腰かけた。するとほどなくして、使用人と思しき女性がトレーを持って入ってきた。トレーには食器が並べられている。どうやら、少年の分の食事を持ってきたようだった。  彼女はそのまま、少年の食事の世話をするようだったが、見ていると、どうにもその手つきがぞんざいなように晶には感じられた。少年が飲み干したコップに水を注いで戻すときなど、中の水が少しこぼれるほどの勢いで置いていたりもしたからだ。
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