第5話 つれないメイドさんと、『女神は二度微笑む』

1/1
前へ
/7ページ
次へ

第5話 つれないメイドさんと、『女神は二度微笑む』

「ねえ映子(えいこ)さん、インド映画のおすすめって――」 「『きっと、うまくいく』です。泰菜(やすな)お嬢様」  割りと意地悪な質問かな、とわたしも思う。だが、即答が返ってきた。口調はそっけないけど。 「率直に申し上げて、日本人こそ『きっと、うまくいく』を見るべきです。自己肯定感の低い日本人は、本作に出てくるランチョーの生き方を参考にすべきかと。ほとんどの成功者が、この映画を見て勇気をもらったと感想を、ネットでアップしています」  ホントだ。それも、どの人も人生が充実している人ばかりじゃないか。 「他に面白いと言えば、やはり『バーフバリ』シリーズです。しかしあれは前後編と分かれていて、見るのは大変です」  見てしまうと、時間を忘れるくらいヤバイらしいけど。 「とはいえ、あなたは模範解答など、望んでらっしゃらないでしょ?」  ややいたずらっ子っぽく、映子さんは答えた。  たしかに、わたしも結構映画はここ一年で見てきたと思う。 「そんな泰菜お嬢様には、こちらをオススメいたします。どうぞ」 「『女神は二度微笑む』? この映画の特徴は?」 「はい。ミステリです」  インド映画で、ミステリって? 「失踪した夫を、身重の主婦が孤独に探し回るミステリです」 「すごいおもしろそう」 「面白いです。わたしも、インド映画だからミュージカル仕立てかなと敬遠していたのですが」  出張先でテロ事件に巻き込まれたかもしれないと、妻は夫を探す。  しかし、夫はテロリストリーダーとうり二つだった。  国際警察は、夫を容疑者と睨んで捜査に当たる。  映画は最後まで、オチがわからない内容だった。実に見ごたえのある映画である。インド映画って初めて見たけど、こんなに面白いんだ。 「どうしてオススメインド映画をご覧になろうと?」 「インド映画のミュージカルBGMに合わせて踊ろうって、体育祭の実行委員から言われたの」  それで参考になる映画を紹介してもらおうと思ったのだ。 「では、ミュージカル仕立てではない『女神は二度微笑む』は、まったく参考にならないじゃないですか」 「……あっ」  あちゃー。 「でも、ご安心ください。『きっと、うまくいく』ですよ。ほら、泰菜お嬢様も胸を手のひらでとんとん叩いて。はい『うまーくいくー』。さんはい」 「う、うまーくいくー」 「はい。うまくいくおなじないです」 『バーフバリ』もいいが、長すぎるからちょっと参考になるかなという。  で、『きっと、うまくいく』をクラスのみんなで見ることにした。  こっちも、三時間もあるやんけ……。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加