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滝川さんと結婚する。 そう僕に報告する結衣は、とても幸せそうだった。 結衣も滝川さんも市立小学校の教員で、小学校こそ違うが度々、研修で一緒になるうちに交際するようになったそう。 「でね、結婚したら犬飼いたいって。滝川さん。困っちゃうよね。私、猫派なんだよ。」 結衣は僕が夕飯の焼きうどんをちびちび食べている部屋で芋焼酎をお湯割りで飲みながら楽しそうに笑う。ソファーに体育座りしながら。 「どっちも飼えば?」 「…だからさ、晴って、なんでそうなわけ?無理だよ。どっちもは。」 小学生の時、僕の父親は結衣の母親と再婚した。 僕と結衣の気持ちは複雑で、まずはお互いがどんな人物なのか分かりあうために毎日話をした。 結衣はホラー映画が嫌いで、ディズニーが好き。餡子が苦手で、黒蜜は好き。病院が嫌いで、学校が好き。スイカが苦手で、いちごが大好きだった。 僕は、花が好き…それ以外に好き嫌いはこれと言ってなく、ただ、父と義母の今を受け入れるには抵抗があり、親たちとは口を聞かないと結衣の前で断言し、家庭の中で孤立しようとしていることに気づいたのか結衣は僕にずっとべったりくっついていた。 親が仕事でいなくて2人で家にいるのは当たり前。 ねえ、写真撮ろうって、チェキを自慢げに見せて来て、僕は写真が恥ずかしくて、逃げ回ったのに捕まって、仕方なく何枚か撮ったことがあった。 口喧嘩もするようになって、僕たちが仲良くなっていくのはごく自然なことだった。 「ま、でも。結婚良かったね。」 「うん。」 「ふふ。」 「はは。」 そんな話をしたのは、つい3年前のこと。 ウエディングドレスを着た結衣は、ずっとずっと幸せに見えた。 ボルゾイって言う、真っ白くてデカイ犬も飼って、滝川さんとは絵に描いたように仲が良い。 僕は少しだけ寂しい気持ちにもなったけど、結衣は僕より数ヶ月だけ生まれるのが早かった同い年の義理の姉だし、幸せそうにしてるならって思って、そんな気持ちはどこかにしまっておくことにしていた。 火葬場から葬儀場へ戻る時、葬儀場から来た道は戻らない。 僕は、結衣の遺骨を膝に乗せて、バスの窓から見える景色を少し懐かしんだ。 結衣と一緒に自転車で通った中学校が見えたから。 「ありがとう。晴くん。」 喪主の滝川さんは位牌を持っている。 「いえ。このくらいは。」 「晴くんの話をする時の結衣、すごく楽しそうだったんだ。病院でも。あ、お見舞い、必ずお花持ってきてくれたよね。喜んでたよ。…ありがとう。」 「…いえ。そのくらいは。」 僕は少しだけ滝川さんが苦手だった。僕たちより8つ年上。嫌な人ではないけど、いかにも先生な感じ。取って付けたような褒め言葉。上部だけじゃんって…悪口しか思い浮かばない。 窓から見える景色。 僕の職場のホームセンターが見える。園芸コーナーの花の苗を買って庭に植えるのが僕の趣味。
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