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退院してから3ヶ月後。 目が見えづらい。頭が毎朝痛い。 そう思って眼科に行ったら脳神経外科の受診を勧められてたそうだ。 脳に腫瘍があり、取ることは不可能。 そう診断されたそう。 それを話してくれたのは土曜日の夜で、僕は夏の処分品の線香花火を買い、家に持ち帰って1人で楽しむつもりだった。 滝川さんが実家の用事で泊まりに行っているからと、結衣がサンを連れて実家に泊まりに来た時だった。 花火やる?って聞くと大きく頷くから、蚊取り線香とライターと線香花火を持って庭に出た。 ひまわりの首が垂れ下がり、夏が終わるのを知らせている。 線香花火の火玉が少し大きく丸まって火花をジジっと散らす時、結衣がゆっくり話し始めた。 「え?何それ。」 「ん?そのままだよ。」 「滝川さんに言った?」 「うん。」 「なんて?」 「泣いてた。…かわいそうって。」 僕の線香花火から火玉が土に吸い込まれた。 「あーあ、晴。揺らしちゃダメなんだよ。」 結衣の線香花火は火玉が小さくなり最後の火花を散らし静かに火を消す。 「…そんな、冷静に聞ける話じゃないよ。」 「大袈裟だな。」 結衣は袋から、2本の線香花火を取り出して僕に1本渡してくる。 「ライター貸して。」 「花火どころじゃ…」 「…晴が慌てても何も変わらないんだから、花火やろうよ。」 結衣は、笑っていた。 自分の頭の中で大変なことが起こっているのに。 「専門的なことは、専門家に任せれば良いんだけどさ。専門家が、お手上げなんだもん。しょうがないよね。」 結衣はずっと笑っていて、でもそれは仕方なく笑っているのではないことはよくわかった。でも、僕には受け入れ難い真実で 「そんな、諦めないでよ!」 結衣の肩を掴んで、語気を荒げた。 「え?なんで晴が泣くの?」 「…死ぬってこと?」 僕の問いかけに結衣は表情を暗くすることはなかった。 「人間なんていつか死ぬじゃん。それが早くなっただけでしょ?」 「嫌じゃないの?」 「最期、苦しいのかなって思うと…まあ、ちょっと。」 「そういうことじゃない。まだ、やりたいこととかあるんじゃないの?これから先、まだまだ…。それが全部、未来とか全部…」 結衣が、僕の涙を指で拭う。 「未来のことなんか考えたことないよ。は、嘘だね。ごめん。考えて、考えて、私、やっぱり悔しくて泣いたけど。だけど、もう良いの。」 僕は結衣の手を握った。力を込めて震えながら。 「自分だけ、答え出すなよ。吹っ切れたみたいに。」 「私が死んだら悲しい?」 「当たり前だろ。」 「でも、それって失うっていう寂しさでしょ?」 「ずっと一緒にいたんだから、そうだろ。」 「それ、晴の都合だからね。」
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