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結衣がいなくなって寂しいと思うのは僕の都合だから、寂しくないわけはないけど、悲しいとは思ってはいけないと自分に言い聞かせる。 結衣と僕は1番の親友。 長い時間、一緒に思い出を共有してきた。 残されたなんて思っていない。 告別式も三日七日法要も全て終わって、祭壇に飾った花が僕の手元にある。 「晴くん、最後までありがとう。これ、結衣から晴くんに。今しか渡せないから。」 滝川さんは、僕にそう言って封筒を渡してくれた。 「なんですか?」 「わからないけど、病院のベッドにあったんだ。」 封筒を開けようとする僕を滝川さんが、家に帰ってから開けたらと止める。 「晴くんにこんなこと言ってはいけないけど。僕ね、結衣については、晴くんに嫉妬してる。」 滝川さんのその顔は、いつもの先生らしさを失っていた。 「え?なんで今、そんなこと。」 「いや、寧ろ今だよ。」 「は?」 「2人、血が繋がってないんでしょ。なのに姉弟って。もしかしたら、どっちかが、好きだったかもしれないし、結衣は晴くんの話をするといつも楽しそうだったし。なんか、大人気なくてごめんね。言っちゃえって気分になって。なんか、急に。」 はははって、照れて笑う滝川さんに僕はふふって笑った。 「ないですよ。結衣のことは好きだけど、女性だとは思ってません。姉って感じです。あ、空気ですね。」 「空気か。…もっと、嫉妬するよ。」 僕の言葉を深掘りしすぎてるなって思った。 滝川さんと初めてフランクに話せて、結衣が作った縁は続いていきそうな気がした。 持ち帰って飾った花はダイヤモンドリリー、勿忘草、青いアネモネ。 結衣を僕が忘れないというよりも、僕を結衣に忘れてほしくない、僕が結衣にまた会いたい。そんな気持ちで選んだ花だった。 生まれ変わっても、結衣と家族になれるだろうか。 もらった封筒を開けてみる。 子どもの頃、初めて撮った写真だった。 「なんでコレ持ってんのかな。」 裏を見ると 出会ってくれてありがとう、またね。 僕には勿体無い言葉だった。 僕たちが出会った理由はなんだったのかな。 涙が滲み始めるから、慌てて上を見る。 すぐに涙が引いてくれるから助かった。 廊下に出て、窓を開ける。 僕の植えた花が綺麗に咲いている。 風が優しく吹いて心地良い。 結衣を思い浮かべて顔を上げると星空が嘘みたいに綺麗だった。
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