雪と檸檬とチョコレート

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二人の声が聞こえなくなった。 誰もいない昇降口に、暖房の音だけが響く。室内の気温は、また徐々に上がるだろう。 美咲は、目を開き、ふっと息を吐く。白い息が浮かんで、消えた。 ポケットに手を入れ、元木から貰ったレモン味の飴に触れる。すると、もう一つ別の物が入っていたことを思い出した。 『ここぞ』という時の為に残していたチョコレート。 美咲は、今こそが『ここぞ』だと言うように、チョコレートを握り、昇降口の扉に手を掛けた。ヒヤリとした鉄の冷たさが伝わる。 外へ出れば、冬の冷気が喉に刺さった。 辺りを見渡すと、二人はまだ、昇降口から校門へ延びるアーケードの下を歩いていた。 少し離れた所にいる元木に、美咲は声を上げた。風の音に消されない様に。 「元木くん!」 二人が振り返る。 「これ、飴のお礼!」 そう言って、チョコレートを元木投げた。それは右側に大きく逸れたが、元木は左手でしっかりとキャッチした。 「ナイスボール!」 そう元木はくしゃりと笑って言った。そして、美咲が投げた物を確認すると 「ありがとう!」 と、手を降った。いつもの、彼の笑顔で。 ただ、それだけの事で、美咲の心は高鳴り、軽くなる。ふっと笑いが溢れた。 そこへ、里香が元木の手元をのぞき込んだ。 声こそ聞こえなかったが、自分も欲しい、とでも言ったのだろうか。 元木はチョコレートの袋を開け、パキリ、と半分に割った。 ただ、それだけの事。それだけの事で、美咲の心も一緒に割れた気がした。パキリと音を立てて。 元木は半分のチョコレートを自分の口にいれると、もう半分を里香に渡した。チョコレートの袋は近くのゴミ箱に捨てられ、美咲が決死の思いで投げたものは、もう、彼の手元には何も残っていなかった。 二人は改めて美咲に手を振り、帰っていく。くしゃりと笑う彼の笑顔と、花のような彼女の笑顔に、美咲は小さく手を振り返した。
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