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美咲はアーケードを出て、雪の中を歩く。肌に触れた雪が、ヒヤリと溶けていく。普段は不快に思うが、今は頭が冴えて心地良い。 空を見上げれば、雪が降って来ているのではなく、自分が空に登っているような錯覚に陥る。
里香は以前、降る雪を花弁のようだと言っていた。しかし美咲は、
ー埃みたいー
ただただ降り積もり、降りつのる。白い綿埃。最後にはいらない物として捨てられ、消える。
空を見上げたまま目を閉じると、雪が左瞼の上にポタリと落ち、溶けて、耳元まで流れた。
美咲は目を開き、昇降口へ戻る。
ポケットからレモン飴を取り出し、迷った末に袋を開け、口に入れた。甘酸っぱいレモンの香りが口に広がる。飴の袋を捨てようと、ゴミ箱の前まで行ったが、暫く眺めてポケットに戻した。
そして、鞄からスマートフォンを取り出し、電話を掛ける。
「ーもしもし、お母さん?学校終わったから、迎えに来て。ーうん、いつもの昇降口にいるから。」
母に終わるのが遅いんじゃない?と聞かれたが、友達と勉強していたのだと、誤魔化した。
電話を切り、ふぅ、と息をついて、下駄箱の側面に背を預ける。昇降口の窓を見ると、外との気温差に耐えかねて、大粒の雫がいくつも流れ落ちていた。
時を知らせるチャイムがなる。
時刻は5時。
私は、あくまで彼の『好きな人の友人』。
親の迎えを待っている間に、偶然彼と会ったから話すだけ。
そうでなくてはならないし、それで良い。
会えるのは、ほんの30分。
でも、その30分の為に、私は明日も『迎え待ち』をするだろう。
もう少しだけ、このままで。
この雪が溶けるまで。
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