spooky night

1/2
31人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ

spooky night

大吾(だいご)、それなに?」 「仮装の衣装だよ!」 「かそうのいしょう?」 「(なぎ)、ハロウィン知らない?」 ハロウィン当日の今日。荷物がパンパンに詰まった大きなバッグを両手に持って凪のところにやってきた。バッグの中身は凪に着せようと大学の演劇部に所属している友人から借りた様々な衣装だ。 ほぼ手作りだけどなかなかのクオリティ。 友人には「貸出禁止なんだよ」と嫌がられたけど、もう脚本作り手伝わないぞ…と脅して借りてきた。人手不足の演劇部。実は演劇部のために脚本を書いてたりもしていたのがこんなところで役立つなんて。 絶対凪に似合うはずだと持ってきたのは、魔法使いに悪魔に黒猫。他にも色々あるんだけど、ドラキュラやオオカミ男は凪よりも(なお)に似合うんじゃないかな?なんて思っている。 お菓子やカボチャ料理も準備して、仕事から帰ってきた直にも仮装をさせて夜通しハロウィンパーティーを楽しもう…とワクワクしながらやってきたのに、凪はまさかのハロウィンを知らないようだ。真之介(しんのすけ)くんのお店でハロウィンフェア的な、限定メニューとかやってないんだっけ? どうせ直はそういうイベントごとに疎いだろうから、俺が教えてあげなければとちょっとしたハロウィン講座を開くことにした。 「ざっくり言うとね、外国のお祭りなんだけど」 「おまつり?」 「そう。でもね、そのハロウィンの日にこわ〜いおばけとか魔女が来て、人間たちに何か悪ことをしたり、子どもたちを攫ったりするの」 「え!?」 「だから身を守るために人間もゾンビとか魔女の仮装をして仲間に見せかけようとしたんだって……、って、凪?どうしたの?」 スマホ片手に書かれていることを読み上げていると、凪がこれはただごとではない!といった様子で衣装の入ったバッグを漁り始めた。貸出禁止って言われたくらいだから丁寧に扱わなきゃいけないのに…と思うけどそんなの凪には通じないだろう。 「は、はやくかそうしなきゃ!おばけ来ちゃう!」 「…え?」 どうやら凪は本当におばけがやって来て何か悪さをされると思っているらしい。 涙目になってる凪は可哀想だけど、これは話が早い。 凪に「おばけ来ないから大丈夫だよ」と教えないまま仮装を開始することにした。だって凪には色々着てもらっていっぱい写真撮りたいんだもん。おばけが来ないと分かれば途中で飽きちゃうかもしれないから。 「そうだね!急いで仮装しよう!」とわざとらしく慌ててみせて、バッグから全ての衣装を取り出した。 * * 「可愛い!魔女っ子凪!めっちゃ似合うよ!」 「…魔女って女の子じゃないの?男の子は?」 「え?あぁ、魔法使い、かな」 「魔法使いなぎ!」 とんがりぼうしに黒いマント。それからサスペンダーの付いた膝丈のパンツを履かせれば可愛い魔法使いの完成だ。変なところを気にする凪を適当にあしらってスマホのカメラを起動させる。 「凪、写真撮るからポーズとって!」 「ポーズ?」 「これ持ってこっち向いて!」 小道具ももちろん準備している。てっぺんに星が付いた木製の杖を持たせると、凪は杖を上に掲げてそれらしいポーズをとってくれた。 パシャパシャと何枚か写真を撮ったあとにさぁ次だと「凪次これ着て!」と黒猫の衣装を差し出すと、凪はとんでもない!と言うように目を丸くした。 「やだ!脱いだらおばけ来ちゃう!」 「…。えっとね、一番似合う仮装をしないと人間だってバレちゃうの。だからいろんな衣装を着て、おばけにバレないのを見つけなきゃいけないんだよ」 「そうなの?」 「うん。だから凪もたくさん着て、おばけにバレないようにしよう?」 「うん!分かった!」 ボロボロと口からでまかせが出てくる自分が怖いけど、これは常日頃漫画を描いて、日々妄想に勤しんでいるおかげだろうか。 真剣な眼差しで頷くピュアッピュアな凪を騙すのに心が痛まないわけじゃないけど、今が楽しければ全て良し、とする。 「めっっっちゃ可愛い!!やっぱり凪は小悪魔だと思ったんだよね!」 「これでおばけ来ない?」 「来ない来ない!でも夜までその格好でいなきゃだめだよ?」 「分かった!」 その後も黒い耳と黒いしっぽを付けた黒猫や、オレンジ色の着ぐるみ?にオレンジ色の帽子をかぶってカボチャの仮装をしたけど、無自覚に直を翻弄する凪はやっぱり小悪魔が一番似合う。黒猫も捨てがたかったけど、それはたっぷり写真も動画も撮ったからいいだろう。 とにかくおばけが気になる凪をそのままでいれば大丈夫と言いくるめて、100均で買ってきたパーティーグッズで部屋を飾り付けることにした。人の部屋で勝手に何してんだよって直に怒られそうだけど、小悪魔凪を見たら怒りなんてどこかにいってしまうはずだ。 ニヤける顔を必死で抑えようとする直を思い浮かべながら、早く帰ってこないかなぁ〜とカラフルになっていく部屋を見渡した。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!