生誕

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生誕

ケンタッキー州で産まれたその仔馬はねずみ色に薄汚れていた。 牡馬(男)だというのに後ろ足は内またに変形していて、みすぼらしくガリガリに痩せている。 牧場経営アドバイザーに「こんなコートハンガーみたいなひどい仔は初めて見たぜ」と言い放たれてしまう始末。 その仔馬は1歳の時、ウイルス性の腸疾患にかかり生死の境を彷徨った。 もともと虚弱体質な上に「もういいんじゃないか」と関係者の中には治療を放棄する者まで現れたのに、彼は生き残った。 翌年、彼は他の仔馬と一緒に輸送している途中、交通事故にあう。 他の仔馬は全て死亡、生き残ったのは彼1頭。 全身傷だらけになり、もともと変形気味の体格はさらに歪められた。 そんな彼を見て関係者の一人が「もう使い物にならない」と銃口を向ける。 何とか傍にいるものが制止したが、殺そうと思った男は本気だった。 彼は何度も死線を潜り抜け、ようやく競走馬市場に姿を見せる。 しかし汚く変形した傷だらけの彼を欲しいというオーナーは現れない。 誰も買い手のつかない仔馬に待っているのは殺処分という結末しかない。 だが彼は当然この死線も突破する。 そして、なんとかデビューにこぎつけた彼はラン・フォー・ザ・ローゼスを制し、世界競馬を震撼させる競走馬へと進化していく。 ・・・おいおい作者よ、なんだその物語。 設定がベタすぎる! 劣環境な主人公が成り上がっていく物語なんか、もう山ほど存在するよ! そんな声が聞こえてきそうだ。 そう、そんな物語は溢れている。 ただ一点言わせて欲しい、この物語は実話なのだ。
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