3人が本棚に入れています
本棚に追加
商談は1時間ほどで終了した。松田と田上に受付の前まで見送られ、朱里は時間を取ってもらったことに改めて礼を述べた。松田の表情は最初に対面した時よりもずっと友好的なものになっており、横に並んだ田上もそれを見て安堵していた。この分だと契約までこぎ着けられそうだ――。自分の有能さを噛み締めながら、朱里は足取り軽くオフィスを後にした。
エレベーターのボタンを押すと、回数表示が点滅を始める。朱里はほくほくとした気持ちでエレベーターの到着を待ったが、そこで不意に西日が差し込み、目を眇めて窓の外に視線をやった。いつの間にか夕暮れ時を迎えていたのか、青々としていた空は次第に翳りを帯び始めていた。立ち並ぶビルの向こうに見える空は桜色に染まり、蒼色を残した空と地平線で溶け合っている。朱色に燃える夕日はゆっくりと降下し、1日の終わりを知らせるように街に影を落としていく。子どもの頃に何度となく目にした光景。
最初のコメントを投稿しよう!