作られた自分

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 自分はいったい何をやっているのだろう。朱里は唐突にそう思った。今の会社に就職して5年、最初は学生気分が抜けきらなかった朱里も、上司や先輩の仕事ぶりを見ているうちに少しずつ彼らのやり方に感化されていった。朱里の会社は昔ながらの仕事観を持った人が多く、『社会人たるもの滅私奉公するのが当然』といった考えが主流だった。朱里の上司や、身近にいた先輩も同様で、彼らは残業を全く厭わず、休日出勤することも珍しくなかった。  朱里は最初、そこまで仕事に邁進する必要性を感じなかったのだが、それが社会人なのだということを何度も説かれるうち、次第に自分もそのスタイルを身につけていった。仕事に明け暮れ、先輩に勧められたスキル本を片っ端から読み、ビジネスパーソンとして求められる姿に自分を合わせてきた。  朱里は不安だったのだ。守られることしか知らなかった学生から、自立して生きることが求められる社会人に変わる中で、自分が1人だけ取り残されてしまうのではないかと。だから必死に周りに追いつこうとした。上司からの期待に応えようとして、社会人としての存在意義を見出そうとして。  努力が功を奏し、朱里は課内でもトップの成績を納めるようになった。表彰されたこともあり、課長はみんなも落合君を見習うように、と口癖のように言った。朱里自身、会社から認められたことで自分に誇りを感じていたはずだった。それなのに、今はそんな自分がひどく空疎なものに思える。
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