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空虚な言葉
それから3日後、朱里は朝からオフィスに出社してパソコンに向き合っていた。課内には十数名ほどの社員が出社していたが、余計なお喋りをする者はおらず、キーボードを叩く無機質な音だけがオフィスに響いている。話しかける必要がある場合でも、他の社員の邪魔にならないように小声でぼそぼそと会話をする。だけど、電話があればたちまち笑みを浮かべ、好印象を与えるために計算し尽くされた声を発する。そして電話が終われば再び無表情に戻り、何事もなかったかのように作業を再開する。その切り替えの早さは役者さながらだ。
朱里について言えば、今日は朝から一本も電話がなかったため、無表情を貫いたまま作業に集中していた。ピアニストのように正確なタッチでキーボードを打ち、パソコンの画面はたちまち文字で埋め尽くされていく。
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