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鏡に映る自分の姿を眺めながら、朱里はふと、道中で浮かんだ光景を思い出した。
茜色の空に浮かぶ落日。それは朱里にとって、とっくに遺物となったはずの記憶だった。だがその遺物は今や鮮明な色を伴って蘇り、あたかも自分が小学生の頃に戻ったかのような錯覚を抱かせた。赤いランドセルを揺らし、友達と繋いだ手を大きく振り、夕焼けをテーマにした童謡を歌いながら帰路につく。家に帰ればエプロン姿の母が出迎えてくれて、リビングにはテレビゲームに興じている弟の姿がある。台所から聞こえる包丁の小気味よい音と、テレビから絶え間なく聞こえる電子音を耳にしながら、朱里はリビングのテーブルに向かって宿題をする。
そうしているうちに日は沈み、暮夜を迎えた頃にスーツにビジネスバッグを下げた父が帰ってくる。ネクタイを緩め、Yシャツ1枚になりながら今日あった出来事を母に話し、その後で自分と弟の頭に手を乗せ、いい子にしてたか、と尋ねてくる。
父が部屋に戻り、着替えを済ませた後で一家揃って食卓につき、きちんといただきますをしてから並べられた料理に箸を伸ばす。湯気の立ち上る白米や、味噌汁の香りが鼻腔をくすぐり……。そんな追憶が、連鎖反応のように朱里の脳裏に蘇ってきた。その追憶は朱里の心に懐かしさを呼び起こさせると同時に、少しだけ痛みを感じさせた。
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