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朱里は田上に連れられて受付の隣にある扉を潜った。ふと受付の方に目をやると、こちらを見つめている受付嬢と視線があった。彼女は相変わらず隙のない微笑みを浮かべていたが、そこには悪戯っぽさが込められているように思えた。
『大丈夫、あなたならやれますよ』
言葉はなくても、朱里には彼女がそう背中を押してくれているように思えた。朱里は自分も笑みを浮かべ、やはり声を出さずに答えた。
『そうね、私もそう思うわ』
朱里はしばし受付嬢と視線を交わしていたが、そこで窓硝子に映る自分の姿が目に入った。見ず知らずの女と共犯者めいた微笑みを交わし合う顔。その姿を見つめながら、朱里はふと、かつて自分を《夕焼けのような笑顔》と評してくれた友人のことを思い出した。彼女とは高校を卒業してから疎遠になってしまって、今はもう連絡を取っていない。どこで何をしているかもわからない。
でも、1つだけはっきりしていることがある。もし、彼女が朱里と再会し、自分の顔に浮かぶ見栄えのいい人工的な笑みを見たとしても、決してその中に癒しや温和を見出してはくれないだろうということだ。
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