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泣きじゃくる娘に、父は寄り添い、身をかがめて、背中にそっと手を置いた。
「お前が心配で、心配で、おちおち寝てられなくてね」
「ごめんなさい、ごめんなさい」
首を振り、取り乱すリナを父は抱きすくめた。
「ごめんなさい、ごめんなさい、お父さんを一人、追い出して、ごめんなさい」
父はリナの背中をぽんぽんと叩いて、優しくなだめながら言った。
「お前のせいじゃないよ、あのとき、お父さんとお母さんはもう、一緒に暮らせないところまできていたんだ。誰のせいでもない、仕方がなかったんだよ。お父さんこそ、お前にずっと辛い思いをさせてしまった、ごめんな、リナ」
顔を覆っていた手をおろし、見上げたリナの顔を父は両手で包み込んだ。まっすぐに瞳を見て、言い聞かせるように言葉を続ける。
「でもな、リナ。他の人を巻き込んじゃいけないよ。あの同僚の山根さんも、総一郎さんも、関係ないじゃないか。二人とも、お前に優しくしてくれた人だろう、こんなことはいけないよ」
娘は子供のように口をゆがめ、眉を寄せ、肩を震わせてしゃくりあげた。
「だって、だって、わたし、辛くて、寂しくて。もう、一人は嫌なの、一人で生きていくことも、死ぬのも嫌なの、だから、だから…」
父が口を開く前に、文香がずかずかと近づき、リナの横で仁王立ちして見下ろした。
「馬鹿言ってんじゃないわよ」
言うが早いか、あっというまにリナの胸ぐらを掴み、平手打ちをくらわせた。これには浦さんも驚き、目を見開いて口をぽかんと開けたまま、呆気にとられた。しかし、いちばん驚いたのは殴った本人だった。
文香は、殴られた頬を手で押さえて睨み付けてくるリナを見下ろし、目をしばたたかせて言った。
「生霊でも殴れるんだ…、で、やっぱり痛いわけ?生きてるって証拠ね」
リナは憎々しげに顎を突出し、口を尖らせた。
「な、なに言ってんのよ、あんた、あんた、何なのよ」
文香は、ふふんと鼻を鳴らして小馬鹿にするような笑みを浮かべた。
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