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リナは文香から目をそらし、唇をぎゅっとかみしめて、俯きながらも、なんとか抗弁した。
「あ、あなたなんかにはわからないわ、あなたにも、誰にも、わたしの心なんてわからない…」
「あったりまえじゃないの」
文香は天を仰いで素っ頓狂な声を上げると、ふうっとあきれたようにため息をついた。
「あんたさあ、尿道結石、なったことある?」
「え?」
唐突に問われて、リナはきょとんとした顔で首をかしげた。
「あれはさあ、そりゃあ、痛いのよ。もう、のたうちまわるくらい、いっそ殺してくれって思うくらい痛いの。でもねえ、レントゲン撮るじゃない、そしたらさあ、写ってる痛みの元の石なんて、ほんの小指の爪の先ほどのもんなの。他人から見たらさあ、なあんだって感じなの。でも、当の本人は、そのちっぽけな石が痛くて痛くてたまんないの」
うつろなリナの目線まで屈みこむと、文香は彼女の両肩に手を置き、身体をぐらぐらと揺すりながら口調を強めた。
「そんなもんなの、自分の痛みは、自分にしかわかんないの、誰にもわかんないの。わかんないことをわかってわかってなんて、無駄なの。けれどもねえ、まわりの者は、みんななんとかわかろうとするの。ううん、わかんないけど、なんとかしたいって思うの。助けなきゃって行動するの。あんたは、そういう人たちに囲まれてるってこと、わかってない。だいたい、あんた自分のことばっかで、他人の心なんて、考えたことないでしょ。殺されかけた山根さんも、義理のお父さんも、ホントのお父さんも、総ちゃんのことも。だからこんなことしてんじゃないの」
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