カッコウの森

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 コロン、コロン、コロン…。  どこからか鈴の音が聞こえる。その音に応えるように、リナはうっすらと目を開けた。目の前が霞んで見える。どうやら泣いているらしい。徐々に、視界がはっきりした途端、目の前にいた白髪交じりの男が、涙声で叫んだ。 「リナ、リナ!先生、看護師さん、リナが、リナの意識が戻った」  目の前にいるのはおとうさん、お父さんではなくて、お義父さん。哀しいカッコウが愛する我が子を託していった、優しい親鳥。 「リナ、よかった、よかった」  責めることも、問いただすこともなく、無償の愛を運んでくれた、この義父の心を、わたしはどれだけ理解していたのだろうか。泣き笑う男の顔を見ながら、リナはどうしても口にしなければならない言葉を思い出した。  コロン、コロン、コロン…。  鈴の音が聞こえる。音のする方に目を向けると、ベッドの柵に、赤い花柄の刺繍の紐の先に、くすんだ銅色のクマよけ鈴がぶら下がっている。リナの視線を追って、その鈴を目にした義父は、目をしばたたかせて首をかしげた。 「あれ、これ、いつからあったのかな。おかしいなあ」  手を伸ばし、ぶら下がった鈴を柵からほどくと、リナの目の前にかかげた。その鈴を持つ義父の手にリナはそっと自分の手を重ねて、恥ずかしそうに口を開いた。 「おとうさん、ごめんなさい、それから、ありがとう」  一瞬、目を見開き、みるみるうちに瞳いっぱいにたまった涙をこぼした義父は、言葉を発することができずに、ただ、リナの頭を優しくなでた。  コロン、コロン、コロン。  鈴の音が、ほがらかな笑い声のように聞こえた。
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