カッコウの森

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 それから。  警察官のトオルは原因不明の高熱で三日三晩寝込んだ。いや、原因は不明ではなく、あきらかだった。  彼にとり憑いた亡者のうち、浦さんは、リナの無事を見届けると、安心して自分からあの世へ帰っていった。首オヤジは、といえば、 「いやあ、なんや、ぬるま湯につかってるみたいで居心地よおて、離れられへん」  と言って、トオルの頭の上ですっかりくつろいでいた。それだけならば、慈光が簡単に引き離せるのだが、さらに面倒なことになってしまっていた。  森の中を歩いているうちに、あと三人ほど、あのあたりをさまよっていた見ず知らずのオヤジの霊を連れて来てしまったのだ。ハゲ、デブ、メガネの三拍子である。これを一気に祓おうとすると、首オヤジまで成仏させてしまうので、仕方なく一人ずつ、引き剥がすのだが、案外に、これが面倒だという。 「だってさあ、一人だけ残すって、そんなの今までやったことないもの」  慈光が経を唱え始めると、首オヤジが騒ぎ立てた。 「わ、わ、わ、ジコ―、やめい、やばい、やばい、わて、消えてまうやんけ」  慈光には聞こえないので何食わぬ顔で経を続けるのを総一郎が慌ててとめた。  そんなわけで、思いのほか手こずってしまい、さすがに体力自慢のトオルの身体でも一気に衰弱してしまって、寝込んだというわけである。それを聞いた文香は、悪びれることもなく言った。 「トオルくんでよかったよねえ、他の人だったら命にかかわったかもね」  その言葉を誰もトオルに伝える勇気はなかった。
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