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もう一人、悲惨な男がいた。
文香から、リナの意識が戻ったと聞いた総一郎は、嬉々として松本の病院まで見舞いに行った。なんとなく、文香の口調から、おもしろそうな事態になりそうだと感じた慈光もついて行った。
すっかりめかしこんで、巨大な花束なんぞをかかえた総一郎だったが、まず、病院の受付で「病院の決まりで植物の持ち込みは禁止されています」とあっさり、花束を取り上げられた。
そんなことでめげる総一郎ではなかったが、さすがにその後、叩きのめされる。
リナが入院している個室の部屋をノックすると、中から「はい」と小さく返事が聞こえた。高まる気持ちを押さえながら、ゆっくり扉を開けると、ベッドの上で身体を起こしていたリナとその隣りの椅子に腰かけていた義父が同時に振り向いた。リナは髪を片側で束ねて結っている。頬に赤みがさして、顔色もいい。その明るい表情がすぐに真顔になり、目をぱちくりさせて小首をかしげた。
「リナさん、よかった、元気そうだね」
めいいっぱいの紳士的な声を振り絞り、総一郎はリナに近付きながら言った。しかし、途端にリナの表情は強張り、身体を後ろに引いた。
「あ、ごめんね、花は病院がダメって言うから、今度は何かお菓子でも持ってくるね」
だらしない笑みを浮かべてさらに近づく総一郎をまじまじと眺めながら、リナはあきらかに警戒して唇を震わせた。義父も怪訝な顔をしてリナをかばうように立ち上がった。
「あ、あなた、誰ですか…」
かすれるリナの声に、総一郎の足が止まった。その後ろに、笑いをこらえて肩をゆする慈光と、文香がいた。文香に気付いたリナが助けを求めるように視線を泳がせた。それに応えて、文香が進み出る。
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