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「河野さん、ごめんなさいねえ、この人、わたしの知り合いだから、怖がらなくても大丈夫よ。総一郎さん、どうしたの間抜けな顔して。なんか勘違いしてるんじゃないの、ほらほら、出て出て」
リナは強張らせていた頬をゆるめると、胸に手をあててほっと、息を吐いた。
硬直したままの総一郎を引きずりだし、病室の扉を閉めると、文香は薄ら笑いの顔で、あざけるように言った。
「ざ~んね~んでした、あの人ねえ、意識がなかったときのこと、つまり、生霊として抜け出してたときのこと、ま~ったく、覚えてないの、もちろん、総ちゃんのこともね」
瞬時に総一郎の顔から血の気がひいた。力が抜けて、ふらふらとその場にへたりこんだ。うらめしそうに文香を見上げる。
「な、な、な、」
「なんで先に言わないんだって?言ったわよお、お兄ちゃんに」
今度は首を捻って、情けない顔で慈光を見上げた。
「な、な、な、」
「なんで教えてくれなかったって?だってさあ、総ちゃん、僕が言ってもきかないでしょ、あの人は駄目だって言ってたのに、勝手にふらふらついていっちゃうんだもん。ちょっとは反省してもらわなきゃ」
兄と妹は顔を見合わせて、ぐふふと笑った。
「この、クソボーズ、鬼ナース!」
「病院で大声ださないでください」
そっくりな意地のわるい笑顔で、スキップして去って行く兄妹を見送りながら、総一郎は一人、頭を抱えて、いつまでもうずくまっていた。
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