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「どうですか?身体が軽くなったように感じませんか」
坊主の言葉に婦人は顔を上げた。さきほどまでは眉間にしわを寄せ鬱々としていたのが、今は、ふっきれたような、晴れ晴れとした明るい表情である。
「はい、なんだか重たかった肩が軽くなりました。ご住職様、ありがとうございました」
婦人は入って来たときとはくらべものにならないくらい、軽やかな足取りで、鼻歌までまじえて本堂を後にした。もちろん、たっぷりの寄進をして。
婦人を送り出した坊主は、ふうっと息を吐き、短い両手をつきあげめいいっぱい伸ばすとゆっくり振り返った。途端に、先程までの威厳に溢れた険しい顔がだらしなく緩んでいく。同じ人物とは思えない腑抜けた表情で並びのいい白い歯を見せてにいっと笑うと、どっしりと鎮座するご本尊の仏像を仰ぎ見て言った。
「総ちゃん、お疲れさん」
三メートルはある仏像の眉間の白毫に埋め込まれたカメラが、じっと坊主を見据えた。
「何がお疲れさんだ、ナマクラ坊主め」
総一郎の呆れ声に、坊主はしれっとした顔で坊主頭をほりほり掻いた。
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