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兄弟喧嘩
倉木総一郎は大あくびをした。
薄暗い四畳半の中央で、長身を折りたたむように背中を丸めて胡坐をかき、スウェットのズボンのすそをたぐり上げて脛を掻きながら手焼きせんべいをかじる。ぼさぼさに伸びた前髪の隙間から覗く細い目は、目の前の座卓の上のモニター画面に向けられていた。
映像は、ぴかぴかに磨き上げられた板張りの部屋を見下ろしている。そこには、黒い法衣の上に金糸が施された豪華な袈裟を着こんだ、でっぷり肥えた坊主の後頭部、そして、その坊主と向かい合わせに座った、見るからに高級ブランドのスーツを着た初老の婦人の顔が映し出されていた。
せんべいをかじる音しかさせない総一郎にしびれを切らせ、坊主はわざとらしい咳払いを繰り返す。仕方なく、総一郎は、インカムマイクに向かって口を開いた。
「その人も、思い込みだよ。何にも憑いてない。適当に慰めて、高い祈祷料もらっとけばいいんじゃねえか」
彼のなげやりな言葉を聞くと、坊主は静かに頷き、婦人の目をまっすぐ見据えた。
「奥方、あなたの背後に、ご高齢の男性が見えます。色が黒くて、目が大きい。おそらく、あなたと血縁関係のある方だと思うのですが、お心当たりはありませんか」
色黒の婦人は大きな目をぱちぱちさせて、握った手を口元にあて首をしきりに捻っていたが、すぐにぱっと顔を上げると「もしかして」と呟いた。
「それは、私の祖父かもしれません。色黒で、大きなぎょろ目をしておりました。けれど、どうして祖父が私にとり憑いているのですか」
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