2.なんで作るの

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2.なんで作るの

 ずきりと胸が痛んだ。  同時に浮かんだのは羞恥の感情だった。 「さ、れてない。全然、いつも通り……」 「嘘つかなくていい。私の席、曽根さんの隣だし。見てたらわかる。昼ご飯も教室移動も、いっつも一緒だったのに、露骨にはぶられてるよね?」  ずばずばと言ってから蓮子は相変わらずの強い視線を胡桃に注いで言った。 「私が腹立たしいと思うのは、川奈さん。あなたがそんな風にされても何事もなかったみたいにへらへら笑い顔作って曽根さんの傍に行こうとするとこ」 「え……」  言葉を失う胡桃を蓮子は数秒凝視してから、ぐいぐいと腕を引いて、中庭の片隅にあるベンチへと向かった。とん、と突き飛ばすように胡桃を座らせ、自分も隣に腰掛ける。 「見ててびっくりした。曽根さんとか中島さんとかあからさまに避けてるのにさ、川奈さん、平気な顔作ってまで一緒にいようとするんだもん」 「……それが、おかしい?」  声が震える。彼女に言っても仕方ない。そう思ったのに止められなかった。 「だって、辛いんだもん。なかったことにしたいんだもん。だったら許してもらえるよう頑張るしかないじゃない!」 「ってかさ、無視された理由、なんかあるの?」 「……わかんない。けどもしかしたらあれかもしれない。私とアンリ、吹奏楽部で……次の大会、ソロパート、私かアンリでって言われたの。それが、私がやることになったから……」 「そんな理由?」 「そんな理由って! 大事なことだよ。私たちにとっては……」 「そんな理由でしょ。そんなのでこれまで仲良くしてた友達、無視しちゃうんだって話」 「アンリは、悔しかったんだよ。仕方ないよ。だって必死にやってきてたんだもん。しかもアンリはさ、トランペット幼稚園のころからやってて……でも私は高校からで。そういうのも許せなかったんだと思う」 「許せなかったらなにをしてもいいの?」  鋭く切り返され、胡桃は目を見張る。蓮子はベンチの下でぶらぶらと足を揺らしていたが、それを止めて胡桃を睨んだ。 「気に入らなかったら無視して? 精神的に痛めつけて? それが許されるの?」 「いや、それはだめだけど、気持ちもわかるし、私は、怒ってないし」  言ったとたん、ぐいいと手首を掴まれた。え、と声を漏らす胡桃を間近く見据え、蓮子は低い声で言った。 「怒ってなくても悲しいんでしょ? 辛いでしょ? それ、どうして我慢しないといけないの? された方がなんで笑い顔作らないといけないの?」  ずずん、と胸が再び痛みを覚えた。言い返せないまま、胡桃はゆるゆると笑顔を作る。 「蓮見さんがそんな怒ることなくない? ってか私たち全然話したこと、なかったし」  そう言うと、彼女は一瞬大きく目を見張った。その後彼女の顔に浮かんだ顔は笑い顔とも困り顔ともつかぬもので、いつも無表情なクールビューティーである彼女が見せたことのないものだった。 「覚えてなかったのか。いや、まあ、ある意味川奈さんらしい」
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