002

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紗羅(さら)! ああ、良かった」  うすぼんやりと明るくなった景色に、私は目を開けた。  痛みの走る体を、母が抱きしめる。  白で統一された空間。  身じろぎすると、体に繋がった線たちが動きを制限した。 「ここ、どこ?」 「ここは病院よ、なにも覚えていないの? あなたたち二人で、事故に巻き込まれてここへ運ばれたのよ」 「ああ、そうだね……」  あのトラックの事故で、ここに運ばれてきたんだ。  私は病室を見渡す。  どうやら個室の様で、ここには紗羅はいない。  あれ?  でも待って。  さっき、母さんは私のことを紗羅って呼んでいなかったっけ。  いくら同じ顔だからって、間違えるなんて。 「でも本当に良かったわ、紗羅。あなたが助かってくれて」  母の瞳から、大粒の涙がこぼれ落ちる。  母は泣きながら、ただただ私の手を擦った。 「え? ねぇ、紗奈(さな)は?」  何とも言えないような気持ち悪さと、恐怖から私はその名前を紡いだ。  紗奈。そう、それは私の名前。 「紗奈は……亡くなったのよ。あなたも一週間も目を覚まさなかったの」 「紗奈が死んだ?」 「そうよ。あなたの意識が戻る前に、もう葬儀も終わってしまったの……」  紗奈が死んだ。  じゃあ、私は一体何なの?  あなたは助かって良かったという母の言葉。  それがどこまでも重くのしかかっていった。  
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