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「あ、青になったよー。早く渡っちゃぉ~よ~」
ややうつむいて、ぼんやり考え事をしていた私に紗羅は声をかけた。
顔を上げると、やや不服そうな私と同じ顔がそこにある。
紗羅と私は双子だった。
一卵性双生児。
同じ顔に同じ声。
両親ですら、見間違うほどの。
「やだぁ、雨降ってきたしー。傘持ってきてないのに、最悪ぅ」
ただ違う点があるとすれば、紗羅はみんなから愛されていて私はそうではないというコトだけ。
簡単に言ってしまえば、紗羅は陽キャで私は陰キャだ。
でも今まではそのこと自体に、何の文句もなかった。
そうあの瞬間まで、は。
だって私が決めて、私がそうしてきたんだもの。
信号を渡り始めたあたりで、ぽつぽつと雨が降ってきた。
先ほどまでせわしなく鳴いていた蝉の声は消え、アスファルトから雨の匂いが立ち込める。
「もー、急がないと」
紗羅が小走りで信号を渡り出す。
つられるように走り出した私の目に、横から来るトラックが見えた。
向こうの側の信号はまだ赤だ。
それなのに携帯か何かに気を取られているのか、トラックがスピードを緩める気配はない。
嫌な予感と共に、自分の周りのすべてがスローモーションで進みだした。
トラックに気付かず、ただ後ろを振り返る唯奈。
その紗羅の手を必死に掴み、引き寄せた。
紗羅はいきなりの行動に文句を言うように、ただ顔をしかめる。
しかし私はそれを無視して紗羅を抱き止めた。
大きな音と、これまで感じたことないような衝撃が全身を襲う。
目の前が一瞬真っ暗になり、濡れたアスファルトに接している背中が冷たい。
そしてぼんやりとする意識が、その冷たい地面に溶け込んで行くようだった。
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