001

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「あ、青になったよー。早く渡っちゃぉ~よ~」  ややうつむいて、ぼんやり考え事をしていた私に紗羅は声をかけた。  顔を上げると、やや不服そうな私と同じ顔がそこにある。  紗羅と私は双子だった。  一卵性双生児。  同じ顔に同じ声。  両親ですら、見間違うほどの。 「やだぁ、雨降ってきたしー。傘持ってきてないのに、最悪ぅ」    ただ違う点があるとすれば、紗羅はみんなから愛されていて私はそうではないというコトだけ。  簡単に言ってしまえば、紗羅は陽キャで私は陰キャだ。  でも今まではそのこと自体に、何の文句もなかった。  そうあの瞬間まで、は。  だって私が決めて、私がそうしてきたんだもの。  信号を渡り始めたあたりで、ぽつぽつと雨が降ってきた。  先ほどまでせわしなく鳴いていた蝉の声は消え、アスファルトから雨の匂いが立ち込める。 「もー、急がないと」  紗羅が小走りで信号を渡り出す。  つられるように走り出した私の目に、横から来るトラックが見えた。  向こうの側の信号はまだ赤だ。  それなのに携帯か何かに気を取られているのか、トラックがスピードを緩める気配はない。  嫌な予感と共に、自分の周りのすべてがスローモーションで進みだした。  トラックに気付かず、ただ後ろを振り返る唯奈。  その紗羅の手を必死に掴み、引き寄せた。  紗羅はいきなりの行動に文句を言うように、ただ顔をしかめる。  しかし私はそれを無視して紗羅を抱き止めた。  大きな音と、これまで感じたことないような衝撃が全身を襲う。  目の前が一瞬真っ暗になり、濡れたアスファルトに接している背中が冷たい。  そしてぼんやりとする意識が、その冷たい地面に溶け込んで行くようだった。
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